舞台「白昼夢」を作・演出 赤堀雅秋さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

舞台「白昼夢」を作・演出 赤堀雅秋さん

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引きこもりの中年男性と老いた父親、その家族を取り巻く人々を描いた舞台「白昼夢」が4月中旬から下旬にかけて、JMSアステールプラザ大ホール(22日・広島市中区)など全国5カ所で上演されます。ツアーに先駆け、東京の本多劇場であった公演では、人気と実力を備えた三宅弘城や吉岡里帆、荒川良々、風間杜夫が、ままならない人生を歩む登場人物を滑稽に、切なく熱演しました。作・演出を手掛け、出演もした赤堀雅秋さんに作品の見どころを聞きました。

あらすじ

高橋清(風間杜夫)は妻を亡くし、次男の薫(荒川良々)と2人暮らし。定職もなく自室に引きこもっている47歳の薫を心配した長男の治(三宅弘城)は、支援団体「ひだまりの会」に助けを求める。団体の会長である別府(赤堀雅秋)と会員の石井(吉岡里帆)は薫の自立に向け、高橋家を頻繁に訪れるようになる。5人の春夏秋冬を描く。

社会の閉塞感を演劇で表現

 ―この作品を書くきっかけは。

プロデューサーから、引きこもりの高齢化による「8050問題」を題材にしてみないかと話がありました。私自身も、元官僚が引きこもりの長男を殺害した事件(2019年)などに関心を持っていました。しかし、8050問題そのものを描くというより、その事象を通して現在の私たちを取り巻く鬱積(うっせき)した空気感を表現したいという思いがありました。

 

コロナ禍で私たちの中には言葉にできない「何か」がたまっていますよね。そういった閉塞(へいそく)感と、閉じられた家庭内で生きている引きこもりの男性と父親の姿がリンクするのでは、と考えました。引きこもりの人がどうやって立ち直るか、といった単純な話ではありません。

 ―弟を自立させようとする兄をはじめ、登場人物の5人はそれぞれ心に闇があり、不穏な何かを感じます。

私が書く人物をクズ人間とか、ダメ人間と評する人もいますが、それは上から目線だと感じますね。表面的には明るく振る舞っていても「助けて」と訴えられず、社会の中でうごめいている人たちは大勢いるのではないでしょうか。引きこもっている薫は自室から出ないという行為でSOSを出しているので、ましなのかもしれません。兄の治や「ひだまりの会」の2人にもそれぞれ事情があり、彼らの胸の内をえぐるとドロドロとしたものが出てきそうで、お客さんには怪しく感じると思います。私も自分が描く人物と同じ目線に立ち、作家としての自分自身をさらしながら作品を書いたつもりですし、出演者たちも面倒な脚本に真摯(しんし)に取り組み、癖のある人物を懸命に演じてくれています。

父の死で感じた人生のはかなさ

―過去の映画や舞台の作品も含め、赤堀さんが描く「父親」像が印象的です。

シアターコクーン(東京)で上演した「世界」(17年)では、独善的で高圧的な父親を風間さんに演じてもらっています。振り返ってみれば自分の父親を投影させていたのかなと。無差別殺傷事件の渦中にある家族を描いた映画「葛城事件」(16年)で、三浦友和さんが演じた父親もかなり抑圧的な人物です。今回の風間さん演じる清にも、そういった要素はあるかもしれませんね。

 

8050問題もですけど、この作品を書く動機の一つに、79歳で数年前に他界した私の父親の存在があります。兄と私でみとった時、悲しいとか寂しいだけではなくて、妙にザワザワした気持ちになりました。当たり前ですが、人も「動物」として死ぬんだと自然の摂理を実感して、人生のはかなさというか、その何とも表現しがたい心情を作品に盛り込めないかと強く思いました。

 

「白昼夢」では春夏秋冬の四季の中で、清をはじめ登場人物たちの人生の一片が繰り広げられます。そこに、はかなさや無常さをにじませられたら。人間関係のさまつな問題でも案外いとおしいじゃないか、とお客さんに感じていただけたら作家としてはうれしいです。

 ―「演劇は難しい」と先入観を抱いている人も。「白昼夢」をどう楽しんでほしいですか。

コロナ禍のために、20年に上演を予定していた舞台が中止になりました。それだけに、東京の初日に埋まっている客席を見た時はうれしかったですね。人と人が意思疎通をするように、舞台の役者と客席もコミュニケーションを取っています。お客さんが客席にいてこその演劇なんです。

 

演劇作品を「分からなかった」「難解だ」と感じても、そういうものだと受け入れてもらえたらありがたいです。簡単に理解できると、満足して「いい作品だった」と思いがちですが、かえって危険だと私は感じています。100人のお客さんがいたら、100通りの見方があっていい。お客さんの中に千差万別の感情が生まれていいんです。若い人たちに見てほしいという思いが強いですね。友人や家族と演劇を見て、「ああでもない、こうでもない」と感想を言い合ってくれたら、作り手として本望です。

 

(舞台写真撮影 宮川舞子)

あかほり・まさあき 劇作家・演出家・映画監督・俳優。1971年生まれ。千葉県出身。96年に劇団「THE SHAMPOO HAT」を旗揚げ。監督作品の映画「その夜の侍」(2012年)で新藤兼人賞金賞。「一丁目ぞめき」で岸田國士戯曲賞(13年)。最近の作品では映画「葛城事件」(16年)、舞台「世界」(17年)、歌舞伎「女殺油地獄」(19年)、舞台「神の子」(19、20年)など。

上演日程と開演時間

[富山]4月14日18時 富山県民会館ホール

[大阪]4月17日13時、18時 18日13時 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

[島根]4月20日18時30分 島根県民会館大ホール

[広島]4月22日19時 JMSアステールプラザ大ホール

[愛知]4月24日14時、25日13時 東海市芸術劇場大ホール

 

問い合わせ M&Oplays  03-6427-9486

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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