映画「雨を告げる漂流団地」を監督 石田祐康さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「雨を告げる漂流団地」を監督 石田祐康さん

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気鋭の若手アニメーション監督として今、注目を集めている石田祐康さん。16日から全国公開される長編アニメの最新作「雨を告げる漂流団地」は、古い団地(住宅棟)が突然出現した謎の海に流され、中にいた小学生たちがサバイバルを繰り広げる奇想天外な物語です。自らも団地に住み、団地マニアから資料提供を受けてアニメ製作に生かしたという石田監督に、作品に込めた思いや見どころについて聞きました。

あらすじ

幼なじみの航祐と夏芽は、小学6年生。航祐の祖父・安次の他界をきっかけに、きょうだいのように育った2人の仲はぎくしゃくしていた。夏休みのある日、航祐はクラスメートと共に取り壊しが進む団地に忍び込む。そこは、航祐と夏芽が幼い頃から過ごした思い出の場所。航祐たちは夏芽と遭遇し、謎の少年「のっぽ」の存在について聞かされる。すると突然、不思議な現象に巻き込まれ、辺り一面は大海原。航祐たちを乗せた団地は漂流してしまう。

「思い出と結び付いた場所」テーマに

 

―「団地が漂流する」という設定に驚きました。小学生たちの冒険の舞台がなぜ、団地と海なのですか。

「ペンギン・ハイウェイ」(2018年公開)の後、小学生たちが海を漂流する作品を作りたいなと思いました。その時、普通なら船ですが、あえて船でもいいけど「団地」に子どもたちを乗せてみようと。僕は古い日本家屋の一軒家で育ったので、団地特有のたたずまいや味わいに憧れていたんです。団地は戦後の住宅不足を解消するため、1950年代から建設が始まりました。単純な住まいというだけでなく、鉄道や道路などと同じインフラとして整備された歴史があり、人とのつながりを重視した街をつくる、という発想があったと聞いています。高度経済成長期の日本の原風景としてにぎわいの象徴だったのに、今は失われつつあるというこの場所を、作品の舞台にしたら面白いのではと思いました。

 

誰しも思い出と結び付いた大切な場所がありますよね。主人公の一人・夏芽にとっては、幼い頃からの楽しい記憶が詰まった団地がそういった場所。団地が取り壊されることを、彼女は受け入れられません。僕も地元に帰ると、子どもの頃に友達と遊んだ空き地や古いゲームセンターがなくなっていて、寂しさを感じます。記憶とひもづいた場所について、ぼんやりと考えていたことを映画にしていみたいなと考えました。

団地マニアの写真フル活用

 

―劇中の団地が細やかに描かれ、リアリティーと懐かしさを感じました。

僕も今、団地に住んでいます。もちろん実体験も参考にしましたが、59年に整備され、東京都内ではマンモス団地として有名だったひばりが丘団地を、もう一人の主人公・航祐と夏芽が育った団地のモデルにしました。ひばりが丘団地は老朽化と耐震不足のために取り壊され、現在は新しい集合賃貸住宅棟になっています。往時の姿を実際には見ていないので、交流サイト(SNS)などで発信している団地マニアの方が撮りためてきた写真をお借りして、フル活用しました。

夏芽と令依菜に思い入れ

 

―登場する小学生たちが、個性的です。

航祐と幼なじみの夏芽と、航祐が好きで夏芽にライバル心を抱いている令依菜(れいな)の女子2人は、作品を作り始めた頃から「こういう子がいたらいいな」と思っていて、制作が進むにつれ正反対のキャラクターになっていきました。夏芽の気持ちを中心に描きながらも、言いたいことを率直に口にする令依菜にも、僕自身が次第に共感していったり。2人がちょっとだけ歩み寄るシーンは、自分の願いも込めて描いていますね。また、子どもたちが漂流して食料に困ったり、嵐に巻き込まれたりとつらいシーンも描かざるを得なかったので、航祐の友達で動き回りしゃべりまくる大志のような明るいキャラクターも描いて、気持ちのバランスを取っていました。

 

―幅広い世代に届くといいですね。

新型コロナウイルス禍でなおさら、人と人とのつながりや絆の大切さを感じながらこの作品を製作していました。多くの人々が共に暮らした団地は、それを象徴する一つの例えです。作品を見てくださった人たちが楽しかったり、つらかったり、忘れられなかったりする記憶と結び付いた場所を思い出してくださったらうれしいですね。

プロフィル

 

いしだ・ひろやす 1988年生まれ。愛知県美浜町出身。京都精華大在学中の2009年に発表した自主製作作品「フミコの告白」が第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞などを受賞し、注目を集める。11年、スタジオコロリドに参加。「陽なたのアオシグレ」(13年)で劇場デビュー。長編アニメでは初の監督作品「ペンギン・ハイウェイ」(18年)が第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞、第22回ファンタジア国際映画祭今敏賞(ベストアニメーション賞)を受賞。

作品情報

 

映画「雨を告げる漂流団地」

声の出演:田村睦心、瀬戸麻沙美、村瀬歩、山下大輝、小林由美子、水瀬いのり、花澤香菜ほか

監督:石田祐康

脚本:森ハヤシ/石田祐康

楽曲担当:ずっと真夜中でいいのに。

広島県内の上映館:イオンシネマ広島、イオンシネマ広島西風新都、福山エーガル8シネマズ

(動画配信サービス「ネットフリックス」でも9月16日公開)

https://www.hyoryu-danchi.com/

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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