舞台「ひび割れの鼓動」を振付・構成・演出 ダンサー・振付家 平原慎太郎さん
東京五輪開・閉会式の振り付けディレクターを務めるなど、コンテンポラリーダンスのダンサー・振付家として存在感を高めている平原慎太郎さん。主宰するカンパニー「OrganWorks(オルガンワークス)」の公演「ひび割れの鼓動-hidden world code-」を2月26、27日、広島市中区のJMSアステールプラザ中ホールで開きます。古代ギリシャ劇の中で歌ったり踊ったり、物語の解説をしたりしていた集団的な存在の「コロス」をテーマに、演劇とダンスの中間的な作品を作り上げたという平原さんに見どころを聞きました。
- 目次
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- ・ ギリシャ劇の「コロス」に注目
- ・ 「人を平均化させる社会」への問い
- ・ 演劇とは真逆の創作方法
- ・ 幅広い層に届ける工夫を
- ・ プロフィル
- ・ 作品情報
ギリシャ劇の「コロス」に注目
―作品づくりのヒントは。
カンパニー以外のダンサーや俳優らを招き、外に開いた作品を作りたいと常々思っていました。2020年は創作のために能について学び、成果としてその年の秋に「えんえん」という能へのオマージュを含んだ作品を東京で発表しました。さらに、昨年はKAAT神奈川芸術劇場(横浜市)での12月公演に向けて演劇的な要素を含んだ新作を作りたいと、人気劇団「イキウメ」の主宰者で劇作家・演出家の前川知大さんにドラマターグ(戯曲の解釈や分析など、演出家を文芸的に補佐する役職)をお願いしました。
能や狂言など古典芸能について造詣が深い前川さんとは以前から飲み友達で、波長が合うんです。頻繁に会っておしゃべりしている中で、能とも共通点があるギリシャ劇、その中でも歌や踊り、朗読、鑑賞の助けとなるような物語の解説などを担っていた「コロス」に焦点を当ててみようという話になりました。
「人を平均化させる社会」への問い
―なぜ、コロスなのでしょう。
演劇が生まれる紀元前、コロスは酒神の祭祀(さいし)で円になってお祈りをしていた人たちが起源といわれています。全員が「その他大勢」のコロスでした。その中から神の声を代弁する人が生まれて俳優となり、俳優とコロスたちで構成する演劇スタイルができていきました。だからといって、俳優とコロスの関係に上下はなく、同等だったといいます。一人一人に個性があり、歯車のようにかみ合って劇全体を回していくコロスはギリシャ劇の中で欠かせない存在でした。僕にとっては、現代でいうモブ(無個性の群衆)よりも尊くいとおしい「コロスちゃん」という感覚です。
そういった知識や感覚を得ながら、前川さんとの打ち合わせでは、新型コロナウイルスの感染者や亡くなった方の人数について、ニュースでの報じ方に違和感があるという話になりました。特に死者に対してはナンバリングをしているようで尊厳が感じられず、コロナ禍での死者は人類の中で、モブキャラなのかエキストラなのか、何なのだろうと。
最近では「俺はモブキャラだし」などと自虐的に言う若者がいます。人々を平均化させ、透明化させたがっている現代社会の流れがそう言わせているのかもしれません。作品には、「そういった空気に慣れてしまっていませんか」というメッセージも含みます。また、古代ギリシャの人々には無意識の状態だったコロスから意識を持って「個」を語る俳優になっていった瞬間があったわけで、その辺りにも着目しています。
演劇とは真逆の創作方法
―稽古場では、どうやって形にしたのですか。
前川さんと話した内容をダンサーや俳優の動きで表現し、その過程を前川さんが見てテキストを書き上げました。テキストは6部構成でパートごとに設定や伝えたい内容、俳優のせりふなどを示しています。それを基に出演者とアイデアを出し合い、試行錯誤を重ねながら練り上げていきました。脚本があって演出する演劇とは真逆の方法です。前川さんには演劇の演出家としての目線で助言してもらい、多くの気付きを得ました。
また、名古屋市在住のトラックメーカー・RAMZAさんが音楽を担当してくださったのも幸運でした。1回の打ち合わせだけで、完成度の高いイメージ通りの曲を送ってくれて感激しました。物語を語るような音楽に、ダンスが乗っているシーンもあります。
横浜の初演は、ダンスに加え演劇のファンも数多く観劇してくださり、好評だったと感じています。お客さんが突き放されたように感じることなく、「答えが全て明かされてはいないけど、分かる」というちょうどいい感覚に着地したのではないでしょうか。
幅広い層に届ける工夫を
―今秋、オペラの演出にも挑戦するなど活躍の場を広げています。
米国の作曲家フィリップ・グラスのオペラ(10月・神奈川県民ホール)を演出します。オペラの概念が覆るような大作で、音楽とダンスが拮抗(きっこう)する作品になりそうです。
劇場から人々を遠ざけたコロナ禍のせいで、コンテンポラリーダンスは過渡期だと認識しています。面白さが保証された作品にしかお客さんが足を運ばなくなったように感じているので、今踏ん張らせないと、ジャンルごと消失してしまうのではと危機感さえ抱いています。「解釈の幅が広くて楽しい」とか「見方が分かってきた」という人たちためにも、コンテンポラリーダンスが淘汰(とうた)されるべきではありません。幅広い人たちに見ていただく工夫が必要です。調子こいて言ってしまいますと、既存の演劇やダンスでは物足りなくなっている舞台ファンをも、満足させられる作品を届けていけたらいいなと思っています。
プロフィル
ひらはら・しんたろう 1981年北海道小樽市生まれ。12歳からクラシックバレエ、高校生からコンテンポラリーダンスを始め、欧州など海外でも学ぶ。2014年からダンスカンパニー「OrganWorks」を主宰。トヨタコレオグラフィーアワードの「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」(いずれも16年)、日本ダンスフォーラム賞(17年)などを受賞。劇団「イキウメ」や白井晃、長塚圭史らの演劇作品にも振付家として参加。広島など各地でワークショップや作品づくりを通じ、若手ダンサー育成にも力を入れいる。TOKYO2020オリンピック開・閉会式振付担当。
作品情報
アステールプラザ芸術劇場シリーズ[リージョナルセレクション]
OrganWorks2021-2022『ひび割れの鼓動-hidden world code-』
振付・構成・演出:平原慎太郎
テキスト・ドラマターグ:前川知大
出演:川合ロン、東海林靖志、高橋真帆、平原慎太郎、町田妙子、渡辺はるか、薬丸翔、佐藤真弓
日時と開演時間:2月26日(土)午後6時、27日(日)午後1時
会場:JMSアステールプラザ中ホール(広島市中区)
料金:[前売り]一般4000円、24歳以下3000円、高校生以下2000円
[当日]4500円(席種別なし、一律)
※全席指定(未就学児入場不可)
協力:FREE HEARTS
お問い合わせ:office@theorganworks.com
※公演中止のお知らせ
「広島県『まん延防止等重点措置』実施期間の再延長に伴う新型コロナ感染拡大防止のための集中対策」(2/19発令 2/21~3/6適用)を踏まえ、残念ながら本公演は中止となりました。