リーディングセッション「雉はじめて鳴く」の作・演出・構成を担当 横山拓也さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

リーディングセッション「雉はじめて鳴く」の作・演出・構成を担当 横山拓也さん

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これまでも多彩な劇作家、演出家を招いて舞台作品をプロデュースしてきた「演劇引力廣島」のリーディングセッション「雉(きじ)はじめて鳴く」が2月23日、JMSアステールプラザ多目的スタジオ(広島市中区)であります。新型コロナウイルスの感染拡大によって今回は、オンラインによる無観客ライブ配信になりました。この戯曲を執筆し、演出するのは近年の演劇界で高く評価されている演劇ユニット「iaku」代表の横山拓也さん。作品や広島の演劇人と作り上げるリーディングへの思いについて、横山さんに聞きました。

あらすじ

 

県立志野原高校で教員をしている浦川麻由(大内唯)は、クラスの生徒の舞原健(森川色)からの相談を頻繁に受けている。健は父親不在の家庭環境や自分につらく当たる母・杏子(宮地綾)に対して、深く悩んでいた。健を好きな女子生徒の奥野早織(平上鈴)は、学校に新しく赴任してきたスクールカウンセラーの藤堂智絵(岡田菜見)に、浦川と健が恋愛関係にあるのではと、相談を持ち掛ける。そんな折、健が失踪してしまい…。

 

 

 

 

学園ものに現代の問題盛り込む

劇団俳優座による「雉はじめて鳴く」。撮影:森田貢造

 

―自身の戯曲の中から、「雉はじめて鳴く」を選んだ理由は。

この作品は、劇団俳優座(東京)で2020年1月に上演されました。「学園ものを書いてほしい」という俳優座からの依頼を受け、ヤングケアラーの問題や学校の中で教員が生徒にどこまで関われるのかといった現代的な要素を盛り込んでみました。その公演では俳優座の眞鍋卓嗣さんが演出され、いつか自分でも演出してみたいという思いがありました。

題名は、古代中国の季節の表し方「七十二侯」の「雉始雊(きじはじめてなく)」から取っています。1月半ばごろ、雄のキジは求愛のためにケーンと泣きます。主要な男子生徒の名前を「健」にし、恋をしたり、親に対して声を上げたり―といった彼の初めての行動とも重ねていて、ここ数年の作品の中では一番はまったタイトルです。

 

劇団俳優座による「雉はじめて鳴く」撮影:森田貢造

 

―劇中では、学校というコミュニティーの中で多彩な人間模様が展開しますね。印象的なのは、女性教員の浦川と健との微妙な関係です。

健には恵まれない家庭環境と、そのために芽生えた寂しさや愛情への飢えがあり、浦川に対して恋愛なのか何なのか自分でもよく分からないあいまいな感情があります。戯曲ではその辺りを深読みできるように書いています。また、自分の学生時代を思い返しても、先生を「役割」でしか見ていなかったように思いますが、劇中では女性としての生き方に悩む浦川や男のずるさをのぞかせる男性教員の姿も描いています。そういった先生たちに、人としての弱さを見いだしてもらえたらと思っています。

 

 

目閉じても情景浮かぶように

稽古するリーディングセッションの出演者たち

 

―俳優たちは、声だけで表現するリーディングに挑戦しますね。

私たちの日常でも、思いとは違う言葉を選んで話していることってよくあります。この戯曲も字面通りに読んでも面白くないところがたくさんあって、言葉の裏側にある登場人物たちの思いや抱えている事情などに対して俳優たちの理解が深まっていくと、味わいが増してくると感じています。今回は演劇ではなく本を手に持って読むリーディングなので、俳優同士が自由に動き回るようなシーンはありません。とはいえ舞台美術をしっかり作るつもりなので、俳優の立つ位置や、目線などを工夫しながら面白いシーンができれば、コロナ禍の中でも集まって作品を作る意味があると考えています。お客さんが目を閉じていても、情景が浮かぶような作品にしたいです。

 

10年先も上演できる作品を

iakuによる「The last night recipe」。撮影:木村洋一

 

―自身の演劇ユニット「iaku」で20年秋に上演された「The last night recipe(ザ・ラストナイト・レシピ)」は、「ウィズコロナの演劇」と話題になりました。

この戯曲に着手するとき、コロナ禍を前にして何を書いたらいいのか分からなくなりました。現実を無視できないと感じて、社会に漂う不穏な空気を背景に、当時はまだ接種が始まっていなかったワクチンの話題や貧困の問題などを絡めて作品を作りました。俳優たちは、口元が見える透けたマスクを装着してせりふを言うシーンもありました。

ただ、今は現代劇を普遍的なテーマで描くときにコロナ禍であることにこだわらなくてもいいのではないかと感じています。私たちがいつの時代にも抱えている葛藤などを描けば、成立するのではないかと。10年先も上演できる作品を作っていきたいですね。

 

―会話劇に定評があります。今後、どんな作品を届けていきたいですか。

基本的には、ダイアローグ(対話)中心の演劇を作り続けていきたいと思っています。小説のページをめくるように、言葉のやりとりを紡いでいく中に登場人物たちの関係性や人物像などがだんだん立ち上がっていく作品が好きです。新聞を毎日読んで、記事の中から作品のネタを拾うことが多いんですよ。人間味あふれる話題を見つけると、スマートフォンのメモ機能を活用して書き込んでいます。それを見返しては、妄想を膨らませることもあります。人々が抱える小さな葛藤に焦点を当てたくなりますね。

プロフィル

 

よこやま・たくや 1977年生まれ。大阪府出身。大阪芸術大の在学中から劇団「売込隊ビーム」に参加するなど演劇活動を始め、2012年に演劇ユニット「iaku」を立ち上げる。「エダニク」(09年)で日本劇作家協会新人戯曲賞、「人の気も知らないで」(13年)でせんだい短編戯曲賞大賞、「ハイツブリが飛ぶのを」(17年)で文化庁芸術祭賞新人賞。「The last night recipe」(20年)が岸田国士戯曲賞最終候補作品に。「雉はじめて鳴く」(20年)と「フタマツヅキ」(21年)は、観客による人気投票の「CoRich舞台芸術アワード」で2年連続1位。今年3月にはパルコ劇場(東京)で「粛々と運針」(ウォーリー木下演出)が上演される。

 

作品情報

演劇引力廣島プロデュース リーディングセッション

「雉はじめて鳴く」

作・演出・構成:横山拓也(iaku)

出演:石松太一、井塚昭次朗、大内唯、岡田菜見、嬌子、菅原優、宙本奈々、竹野弘識、長畑篤克、平上鈴、宮地綾、森川色

視聴方法:「演劇引力廣島」YouTubeチャンネル

2月23日午後1時 https://youtu.be/i9xgG6NQDNM 午後5時 https://youtu.be/KloqJxZyhx8

視聴料金:無料

(各回の終演後にアフタートークがあります)

問い合わせ先:082-244-8000(公益財団法人広島市文化財団アステールプラザ)

※俳優・スタッフは抗原検査、PCR検査などで陰性を確認した上で、感染症予防対策を徹底して実施します。

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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