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初のエッセー集を出した作家・小山田浩子さん

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日常に紛れ込んでいる奇妙さや不思議さ、おかしみを表現した作品が魅力の芥川賞作家・小山田浩子さんが、初のエッセー集「パイプの中のかえる」を出版しました。2020年7月から12月まで、日本経済新聞夕刊に毎週連載したコラム23編と書き下ろしの2編が収められています。暮らしの中の気付きや小さな葛藤、心の奥底でずっと引っ掛かっていたこと―をつづる小山田さんの視点に、「そうそう」とうなずいたり、思わず笑ってしまったり。そんなエッセー集について、小山田さんに聞きました。

漫画家オカヤイヅミさんが装画

―手作り感のあるすてきな本ですね。

インディペンデントの本を出版したり、文化イベントを企画したりする「ignition gallery(イグニッションギャラリー)」(東京)主宰の熊谷充紘さんから声を掛けていただいて、この本を出せることになりました。4月に手塚治虫文化賞短編賞を受賞した漫画家のオカヤイヅミさんが装画と挿画を担当してくださって、とても気に入っています。

「小説」としても楽しめる一偏

小山田さんの直筆サイン。

 

―お気に入りのエッセーは。

「故郷の言葉」でしょうか。古い個人商店で買い物をした時、応対してくれた女性の言葉に四国のイントネーションがあった、という話です。私は話す相手の方言に影響されて、無自覚にしゃべり方を変化させてしまうことがあるんです。結婚して広島に来て50年、商店で毎日お客さんと話していても、古里の言葉が残っている女性の存在をきちんと書けた気がします。小説としても楽しんでもらえると感じています。

 

 

―「呼び方」という一編に、ハッとさせられます。

「主人」「旦那さん」など夫婦の間に主従関係があると感じてしまう言葉は、使いたくないですね。相手の配偶者を示す「おつれあい(さま)」が男女問わず使えていい、とエッセーの中で提案していますが、言いにくいですよね。夫婦別姓だったら、夫と妻を違う姓名で呼べるのに。そういった意味でも、夫婦別姓が認められたらいいのにと思います。

つながっていない「平和」と政治

―ウクライナで現実に有事が起こっている今、平和教育についての指摘が響きました。

広島では教育現場などで熱心に取り組んでいるのに、「平和は大切」など抽象的なところでとどまっていると感じています。2019年と今年7月の参院選で、広島県の投票率は50%を下回って全国平均にも届きません。戦争や核兵器のない世界を願うなら、確実に行使できる選挙権をなぜ活用しないんだろうと疑問に思ってしまいます。平和の問題と政治が体感としてつながっていないのかもしれません。

 

また、私たちは日本の戦争加害について教育の中で十分に学んでいないのも問題です。数年前に韓国での文学系シンポジウムに参加し、戦争と文学との関わりについて質問された時、私は被爆者側の話ばかりしてしまいました。韓国の方たちの立場に立った視点が抜け落ちていたと猛省した経験があります。

米国では秋に3冊目

外国語に翻訳された小山田さんの著作(小山田さん提供)

 

―作品が海外に広がっていますね。

米国をはじめ、欧州ではスペインやフランス、アジアでは台湾や韓国などで翻訳されています。米国ではこの秋、「工場」と「穴」に併載の3編をまとめた3冊目が出る予定です。今、日本の女性作家が海外で人気です。現代社会での生きづらさはどこの国や地域でもあるでしょうけど、作品の中で描かれる生きづらさへの対応や距離の取り方などに共感する一方で、理解しがたいところもあって、そこに奇妙さや面白さを感じてくださっているのではと感じています。

 

最近は短編を書くことが続いていたので、次は連作短編にできたらなと予定しています。日常こそ変なのに、その「変さ」が日常すぎてみんな気付かないことが多い。そんな日常をきちんと描けたら、気持ち悪いし、怖いし、不思議だし、面白いのではといつも思っています。

プロフィル

(新潮社提供)

 

おやまだ・ひろこ 1983年生まれ。広島市佐伯区出身、在住。2010年に「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。13年には同作を収録した単行本「工場」が三島由紀夫賞候補、同書で織田作之助賞。14年「穴」で第150回芥川賞。その他の著書に短編集の「庭」(18年)、「小島」(21年)。最近では作品が次々と翻訳され、台湾や韓国、米国、スペインなど海外でも広く読まれている。

 

「パイプの中のかえる」は、広島県内では蔦屋書店(広島市西区)やジュンク堂書店広島駅前店(南区)、りんご堂(中区)、READAN DEAT(同)などの書店、ignition galleryのサイトでも購入できる。

 

 

 

 

 

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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