映画「レジェンド&バタフライ」を監督した大友啓史さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「レジェンド&バタフライ」を監督した大友啓史さん

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戦国武将の織田信長と正室・濃姫の愛と生きざまを描いた映画「レジェンド&バタフライ」が全国の映画館で公開中です。東映の創立70周年を記念し、主役の信長に木村拓哉を迎えて企画された総製作費20億円の大型時代劇。「動乱の時代に政略結婚させられた2人が、愛を発見してどこにたどりついたのか見届けてほしい」と話す大友啓史監督に、見どころや作品への思いを聞きました。

固定概念の信長を「再起動」

 

―なぜ今、「信長」なのですか。

東映からオファーをいただいた時に、木村拓哉さんと綾瀬はるかさんの共演、古沢良太さんの脚本でやりたいと聞いてすごくいい座組だと思いました。ですが、「題材は信長で」と言われて「ん?」と。これまでドラマや映画で、既に散々描かれている人物ですからね。やるからには、今までやったことがないような切り口を探さなければいけない。過去作に触れてみると、信長にまつわる映画やドラマは、どこか冷酷なカリスマとして男目線で捉えられてきたものが多いように思いました。なので、今回は、綾瀬さん演じる濃姫という女性の目線が入ってくることで、現代をさかのぼったその線上にいる生身の信長像を表現できるのではと。そう考えると、この仕事がとても楽しみに思えてきたんです。そろそろ、固定観念でガチガチの信長をリブート(再起動)しなくちゃと考えました。

 

かつて演出したNHK大河ドラマ「龍馬伝」(2010年)もそうでしたが、僕は歴史上の人物をひな壇に祭り上げるのではなく、私たちと同じ人間が多くの経験や出会いを経て歴史に名を残したのだと、そう伝わるように描きたいと思ってきました。信長だって人前では精いっぱい踏ん張っていても、妻の前ではそれとは異なる姿を見せることがあったかもしれません。

信長と対等の濃姫

 

―濃姫は武芸も知略も信長と対等に渡り合える、現代の女性に近い存在として描かれています。

美濃の戦国大名・斎藤道三の娘であった濃姫についての記録は、ほとんど残っていません。ですが道三の娘ですから、当時の武家の習いとして当然武芸のたしなみはあったはずですし、信長との婚儀の前に2度結婚していたことも分かっている。そう考えると、結婚当初は信長より精神的にも大人であったことは容易に想定できます。未熟な信長に知恵や策を授けたのは濃姫だったかもしれないと想像すると、そういった描き方が新しい時代劇の切り口になるのではと思いました。映画の中では、濃姫は父との夢だった天下統一を信長に託します。男が女に支えられながら夢をかなえようとするのではなく、女の夢を男が実現していくという側面も描いています。

天下への道 城の変遷で表現

 

―信長が成長するにつれ、移り変わっていく城も見どころの一つです。

映画の中では、信長と濃姫は新婚時代、平城(ひらじろ)で野趣の残る那古野(なごや)城に住み、清洲城、岐阜城、安土城と居城を変えていきます。現代の成功した若い夫婦が1DKから3LDK、そして豪邸へと移り住んでいくように、天下を目指す道のりを城の変遷でも表しています。とりわけ、京都に巨大なオープンセットを造って再現した岐阜城に注目してほしいですね。上洛(じょうらく)を果たした信長は朝廷との付き合いも始まり、岐阜城は接待施設の役割も兼ねるようになりました。また、2人の愛の巣だったのに、そこは次第に心のすれ違いが生じて「氷の城」にもなっていきます。住空間は住む人の個性や考え方を表せるので、とても面白い。そういった意味でも、こだわって城を描いたつもりです。

 

 

―映画の後半は、独裁的な権力者としての信長の孤独が際立っています。

物語の大きな柱は、信長と濃姫のラブストーリーではあるものの、「独裁者の憂鬱(ゆううつ)」というのも個人的にはサブテーマの一つで、独裁者の孤独な心の奥底をのぞき見たいという思いが撮影の時にはありましたね。もちろん、戦国時代は領地の奪い合いだったし、殺し合いも当時の価値観では当たり前で、比叡山焼き打ち(1571年)も、信長にしてみれば仕方なかったのかもしれません。今の道徳観を入れずに、作品を作り上げています。

 

一方で、信長のような権力者にも、私たちが共感できる感情を抱いていてほしいという思いは、誰しもあるはずです。それは、撮影が終わった一月後に起きたウクライナ侵攻などを見れば明らかです。ロシアのプーチン大統領にも、人の生命を奪うことへの罪の意識があると信じたい。信長と現代のリーダーたちが重なって見えることもあると思いますね。

プロフィル

 

おおとも・けいし 1966年、岩手県生まれ。NHKに90年入局。ドラマ「ハゲタカ」(2007年)や「白洲次郎」(09年)、大河ドラマ「龍馬伝」(10年)などを演出。映画では、「ハゲタカ」(09年)で監督デビュー。11年に独立し、シリーズ累計で興行収入200億円に迫る大ヒットとなった「るろうに剣心シリーズ」(12~21年)、「プラチナデータ」(13年)、「ミュージアム」(16年)、「3月のライオン前編・後編」(17年)、「億男」(18年)、「影裏」(20年)など。

作品情報

映画「レジェンド&バタフライ」

出演:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、音尾琢真、斎藤 工、北大路欣也、伊藤英明、中谷美紀

脚本:古沢良太

監督:大友啓史

配給:東映

広島県内の上映館:広島バルト11、TOHOシネマズ緑井、109シネマズ広島、イオンシネマ広島、イオンシネマ広島西風新都、T・ジョイ東広島、エーガル8シネマズ、福山コロナシネマワールド

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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