世界劇団「天は蒼く燃えているか」 作・演出・出演 本坊由華子さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

世界劇団「天は蒼く燃えているか」 作・演出・出演 本坊由華子さん

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愛媛大医学部の医師や医学生が所属する演劇部からスタートし、現在は劇団として精力的に全国各地で公演を重ねている世界劇団。2019年の「せんがわ劇場演劇コンクール」ではオーディエンス賞を受賞するなど高く評価されています。今年も3都市ツアー公演の一環として3月5、6の両日、JMSアステールプラザ多目的スタジオ(広島市中区)で「天は蒼(あお)く燃えているか」を上演します。精神科医として臨床の現場で働きながら劇団を主宰し、作品の脚本・演出、出演もこなす本坊由華子さんに、作品に込めた思いを聞きました。

「炎」モチーフに作劇

 

―原作は芥川龍之介の短編「アグニの神」です。劇中では、オリンピックの聖火や個人に批判が殺到する炎上など多彩な「炎」が登場します。

童話や昔話を下敷きにした作品を作ることが多いんです。アグニの神とはインドに伝わる炎の神さま。人類にとって原始的で普遍的な炎は、時代を超えて表現できるモチーフだと感じました。後期高齢者やヤングケアラーの問題、開会前から不祥事が噴出していた東京五輪、過剰なクレームや誹謗(ひぼう)中傷などの社会問題と炎というモチーフをうまくつなげられたのではと思っています。ただ、これらの問題は精神科医として働いている立場から見える日常であって、社会を映す道具立てに過ぎません。お客さんに「考えて」という気持ちよりも、一歩引いた視点から「いろいろな炎につきまとわれている愚かな現代人」を作品の中で示したという感じでしょうか。

 

―言いようのない不安を抱え、あやふやな情報にすがる大衆の心情も投影されている気がします。

新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年1月の時点では脚本をほぼ書き上げ、広島を含めた3月からのツアー公演を計画していましたが、感染拡大で延期せざるを得ませんでした。9月になってようやく、松山市で初演の幕を上げることができました。今になって戯曲の言葉に触れると、冷静ではなくなった社会の空気や常に研ぎ澄ましてヒリヒリしていた自分自身の感覚、社会の変化や真実を見極めなくてはという緊張感―などでいっぱいだった稽古中のことを思い出します。そういった記憶や感触を、あえて残して上演しなければと感じています。

医療用語もせりふに

 

―世界劇団の特徴は。

ポエティックな劇文体のせりふとダンサブルな身体表現です。非日常的で不思議な世界に観客をいざなう作品を作りたいという思いもあって、静かな現代口語演劇がトレンドの中では珍しいかもしれません。また、劇文体のせりふの中に、血圧や脈拍など医療現場で日常的に使っている言葉をあえて取り入れているのも、劇団の特徴です。「サイエンスポエム」と表現してくださる方もいます。

おなかのわが子と演技

 

―別の作品も10月、広島で上演予定と聞きました。

「竹取物語」を下敷きにした2人芝居の「ひとよひとよに呱々(ここ)の声」です。女性の妊娠や中絶、生命にまつわるエピソードを盛り込んだ作品です。福岡市と松山市で公演した後の昨春に妊娠が分かり、「おなかに赤ちゃんがいる状態で演じたい」と劇場を探して、津市と兵庫県伊丹市でも上演しました。妊娠とは、胎児がオプションのように私の体に付属するイメージでしたが、実際には自分の中に入り込んだ感覚でした。芝居をしている最中も胎児が想定外の反応をして、胎児と2人で相手役にリアクションすることがありました。そういう体験ができたのは、私にとってかけがえのない財産です。昨年12月に無事、男児を出産して胎児と一緒に芝居することはありませんが、広島のお客さまに楽しんでいただきたいです。

人に寄り添う作品届けたい

 

―今後、どう活動していきますか。

精神科医と演劇人を両立させていた日常に、「母」が加わりました。産休・育休中の今は演劇活動と育児に専念しています。医者である私の方が演劇人として面白いし、母の私である方がなお面白くなると感じています。また、活動拠点の愛媛だけにこだわらず、全国各地で活動している俳優・スタッフと交流し、創作していけたらと考えています。

 

これまで、芸術は社会に一石を投じるためにあると考えてきました。「平和ボケした日本人に絶望を突きつけるぞ」という意気込みでしたが、現実の絶望感がフィクションを上回っている気がしています。むしろ人に寄り添い、人を抱き締めるような作品があってもいいなと感じています。

プロフィル

 

ほんぼう・ゆかこ 1990年生まれ。鹿児島市出身。2016年愛媛大医学部を卒業。同大医学部演劇部を母体とする世界劇団を17年、劇団化して団長に。同大医学部付属病院精神科の医局に籍を置き、臨床の現場で働きながら、精力的に活動。劇王天下統一大会 in KAAT四国代表(15年)。利賀演劇人コンクール選出(18年)。せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞(19年)。東京芸術祭2020アジア舞台芸術人材育成部門 APAF young farmers camp選出。

作品情報

世界劇団 2022年3都市ツアー「天は蒼く燃えているか」

原作:芥川龍之介「アグニの神」

脚本・演出・振付:本坊由華子

出演:本坊由華子、木母千尋、片渕高史、木山正大、泰山咲美

日時と開演時間:3月5日(土)午後6時30分/6日(日)午後2時

会場:JMSアステールプラザ多目的スタジオ(広島市中区)

料金:一般前売り2500円(当日3000円)、U-24前売り2000円(当日2500円)

問い合わせ:http://worldtheater.main.jp/

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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