映画「走れ!走れ走れメロス」で注目の 映画監督・折口慎一郎さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「走れ!走れ走れメロス」で注目の 映画監督・折口慎一郎さん

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新型コロナウイルスの感染が拡大し、行動制限が広がる中で演劇に熱中する男子高校生4人と指導する先生を追ったドキュメンタリー映画「走れ!走れ走れメロス」が、東京・下北沢の映画館で公開中です。主役は、島根県にある小さな分校の生徒たち。演劇初心者の彼らが芝居に魅せられ、ひたむきに取り組み、とうとう東京の劇場に立つという快挙を成し遂げます。初の監督作品ながら、各地の映画祭で多くの賞を受けるほどの秀作を送り出した折口慎一郎監督に、見どころや作品に込めた思いを聞きました。

予想外のドラマチックな展開

 

―高校生たちとの出会いは。

地元で劇団を主宰し、三刀屋高掛合分校(雲南市)の演劇同好会も指導していた亀尾佳宏教諭(現松江工高)とは、大学時代の後輩を通じての知り合いでした。「掛合で演劇をやっている高校生たちをドキュメンタリーにしたら面白いんじゃない?」という亀尾さんの提案で、全国高校演劇大会出雲・石見地区大会があった2021年9月から、カメラを回し始めました。

 

掛合は生徒数が70人ほどの分校で、統廃合の危機にさらされたこともあります。同好会の4人は勉強やコミュニケーションが得意なタイプではないものの、なかなかの個性派ぞろい。太宰治の短編小説「走れメロス」を下敷きにした亀尾さん脚本・演出の作品で、地区大会突破にチャレンジしようとしていました。彼らの成長を記録できたらいいなと、最初はそんなふうに考えていました。

 

 

―地区大会は敗退しましたが、その後のドラマチックな展開は想定していたのですか。

そういうわけではないんです。コロナ禍の地区大会は無観客だったので、生徒たちには「満席のお客さんに見てほしい」という願いがありました。亀尾さんがエントリーしていた若手演出家コンクールの2次審査で作品を上演したところ、日本演出者協会の審査員に高く評価されて最終審査に進みます。その過程も含め、予想外の出来事に引っ張られるように撮影していきました。

「演劇やりてえ」の叫びに爽快感

 

―コロナに可能性を奪われなかった高校生たちが、とても魅力的でした。

20年春に入学した彼らは、大声で騒ぐことすらはばかられる日常を過ごし、学校行事で校歌を歌うこともできませんでした。感染が拡大しているさなかに演劇を続けること自体、大きなリスクを伴いましたが、生徒たちは続けることを選びました。劇中のラストでは「演劇やりてえ」と大声で思い切り叫んだり、掛合分校の校歌を歌ったりするシーンがあります。私も自粛ムードに反発心を覚えていたので、彼らの叫びが世の中の雰囲気を壊してくれたようで爽快感がありました。「不要不急」とされた演劇でなくても、活動を制限されて悔しい思いをした人たちは多いはずです。同じような「あらがい」をした人たちにも、共感してもらえたらいいなと思います。

続編では卒業式も収録

 

―ノーナレーションでテロップも最小限にした狙いは。

ドキュメンタリーの手法を取りつつも、ドラマ映画っぽく作り上げたいという思いが撮影当初からありました。製作者側のメッセージをナレーションで直接的に伝えるのではなく、多彩な受け止め方ができる劇映画のように楽しんでほしいなと。一方で、生徒たちへのインタビューでは答えを誘導しないように、彼らの言葉で話してもらうことを大切にしました。

 

―続編を製作中だそうですね。

出演した曽田昇吾君は新たな一人芝居に挑戦し、全国高校演劇大会の中国ブロック大会(22年12月)では優秀賞に輝きました。また、映画公開中には上映館近くの小劇場で舞台「走れ!走れ走れメロス」を上演。彼らにとっては2度目になる東京公演に加え、進路の選択や卒業式なども映像に収めるつもりです。

私にとっても、この作品はターニングポイントになりました。「当事者」を撮影し、ドキュメンタリーならではの「生」の良さを生かしながら、ドラマ映画に近づける手法を追求してみたいなと思っています。

プロフィル

 

おりぐち・しんいちろう 1988年生まれ、安芸高田市出身。京都大大学院理学研究科生物学専攻科修士課程修了後の2013年、中国新聞社に記者職で入社。18年に退社した後、大学在学中に取り組んでいた映画製作をスタートさせる。本格的なデビュー作となった「走れ!走れ走れメロス」で、第14回下北沢映画祭審査員特別賞、観客賞など四つの賞を獲得したほか、第42回「地方の時代」映像祭市民・学生・自治体部門優秀賞、うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテスト実行委員会特別賞、東京ドキュメンタリー映画祭2022入選など。

作品情報

 

映画「走れ!走れ走れメロス」

監督・編集:折口慎一郎

出演:曽田昇吾、常松博樹、石飛圭祐、佐藤隆聖、亀尾佳宏

上映館:東京・下北沢トリウッド(31日まで)

https://tollywood.jp/

 

映画の公開期間中に、掛合分校演劇同好会の東京公演も!

舞台「卒業式」

三刀屋高掛合分校演劇同好会による「走れ!走れ走れメロス」、松江工高演劇部、三刀屋高演劇部による「葉桜と魔笛」、劇団一級河川による「酒とお蕎麦と男と女」の3作品を上演。

脚本・演出:亀尾佳宏

日時:3月10~12日

場所:「劇」小劇場(東京・下北沢)

チケット:一般前売り2500円(当日3000円)、高校生以下前売り1500円(当日1800円)

問い合わせ mrco@m8.dion.ne.jp

「劇」小劇場ラインナップ (honda-geki.com)

 

島根の公演も決まりました!

場所:島根県民会館中ホール(松江市)

開催日時:3月22日  開演19:00

料金:一般1000円、高校生以下無料

問い合わせ:0854-42-1155

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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