映画「こちらあみ子」で監督デビュー 森井勇佑さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「こちらあみ子」で監督デビュー 森井勇佑さん

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無垢(むく)で純真、自由で思いのまま、でも周囲とうまくつながれない―。そんな少女を描いた映画「こちらあみ子」が7月8日から、広島市中区の八丁座など全国の映画館で順次公開されます。芥川賞作家・今村夏子さん(広島市出身)のデビュー作を映画にしたのは、この作品で初メガホンを取った森井勇佑監督。主人公あみ子を演じた大沢一菜(かな)さんのみずみずしい演技と存在感を引き出し、東京で開かれた先行試写の後、交流サイト(SNS)で話題になりました。森井監督に、作品と「あみ子」に託した思いを聞きました。

あらすじ

あみ子(大沢一菜)はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん(井浦新)、一緒に遊んでくれるお兄ちゃん(奥村天晴)、書道教室の先生でおなかに赤ちゃんがいるお母さん(尾野真千子)、憧れの同級生のり君(大関悠士)、たくさんの人に囲まれて元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋な言葉や行動が、周囲の人たちをいや応なく変えていく―。

自分と似ている「あみ子」

 

―原作に魅了されて、「いつか映画に」と思っていたそうですね。

20代後半だった6、7年前に読み、あみ子が自分自身ととても重なるところがあり、この小説を映画にしたいと思いました。3年前から企画が動き出し、脚本を書き始めました。原作には広島弁が書かれていましたので、広島で撮影したいと思っていましたが、資金的な考慮から東京近郊で撮ることも考えました。広島弁の脚本を標準語にしてみたりもしたのですが、リズムが大幅に崩れてしまったのでやめました。広島市や呉市、竹原市などに1週間ほど滞在して一人でぶらぶらと歩き回り、どんどん広島で撮りたいという思いが強くなっていきました。広島フィルム・コミッションの尽力もあり、子役のオーディションや撮影が広島で実現しました。

「一緒に遊ぶ感覚」の撮影現場

 

―あみ子役の大沢さんが伸び伸びしています。

あみ子や他の子どものキャスティングが一番この作品にとっては重要だったので、慎重に選考を重ねました。ただ、一菜に会ったときに「この子だ」と直感しました。素直でうそのないたたずまいが良かったんです。撮影では、一菜にあみ子というキャラクターを説明するような演出はつけていません。あみ子というキャラクターを、一菜の中で対象化して演じるということをしてほしくなかったからです。対象化して演じる演技は、あみ子という役には合わないと思っていました。あみ子は直接ものを見て、直接語りかけるからです。この感覚を出すには、役を対象化せずに、ただ演技をするということが必要でした。僕から一菜には、「対象化して演技をしない」ということと、「元気に」ということを主に伝え続けていました。一菜はそれに見事に応えてくれました。後は、こちらの効率を優先しないようにして、一緒に遊ぶ感覚も大切にしました。一菜だけでなく、僕もスタッフも昼寝したり。遊びの延長線上でリラックスして撮影現場にいてもらうことも、とても大事でした。

 

 

―物語の中に織り込まれるダンゴムシやカエルなど生き物の「一瞬」も作品の味わいになっています。

撮影のときには理屈で考えていなかったのですが、生き物を登場させたのは直感でした。演出部には、虫を見つけたらとにかく捕まえてほしいとお願いしていました。撮影が進むにつれて、次第に演出部以外のスタッフも虫を見つけたら捕まえておいてくれるようになりました。それはきっと僕の中で、あみ子の周りに生き物をたくさん登場させたかったからなのだと思います。あみ子の周囲が常に生き物でざわざわと豊かだということを描きたかったんです。

自分の中の「あみ子」見つけて

 

―物語が進むにつれ、あみ子を丸ごと受け入れられない両親や学校の同級生ら世間の在りようが残酷に感じられ、胸を締め付けられます。

この映画で、あみ子が社会や世間の隅に追いやられていく構図を描いているつもりはないんです。両親や学校の同級生に関しても、世間の無理解のメタファー(隠喩)ではありません。彼らは彼らで生きている実感のこもった人物たちです。この映画は、あくまでその人間たちのかけ違いを描いているのであって、あみ子への社会の無理解を描いているわけではありません。ただ、多くの人たちは誰かと接していても、どこか社会や世間のフィルターを通してコミュニケーションを取るところがあるとは思います。一方のあみ子は人や生き物そのものを直接見ようとし、直接語りかけます。そんなあみ子という、真っすぐな人間そのものが描けたらと思っていました。この映画を見てもらった人の心の中にも、自分の中にいるあみ子を見つけてほしいです。

プロフィル

 

もりい・ゆうすけ 1985年兵庫県生まれ。日本映画学校 映像学科(現日本映画大学)を卒業後、映画学校の講師だった長崎俊一監督の「西の魔女が死んだ」(2008年)で、演出部として映画業界に入る。以降、主に大森立嗣監督をはじめ、日本映画界をけん引する監督たちの現場で助監督を務め、本作で監督デビュー。

作品情報

 

「こちらあみ子」

出演:大沢一菜、井浦新、尾野真千子、奥村天晴、大関悠士、橘高亨牧ほか

原作:「こちらあみ子」(今村夏子著)

脚本・監督:森井勇佑

音楽:青葉市子

https://kochira-amiko.com/

 

<広島県内の上映館>

八丁座、福山エーガル8シネマズ、福山駅前シネマモード、呉ポポロシアター(7月8日~)、広島バルト11、T・ジョイ東広島(29日~)、シネマ尾道(30日~)

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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