リーディング「わたしのそばの、ゆれる木馬」を演出した 日澤雄介さん
芸術文化の作り手のインタビュー記事を執筆している私、メディア中国編集部の仁科久美も、戯曲を学んでいるクリエーターの端くれです。初めての長編戯曲「わたしのそばの、ゆれる木馬」が第28回劇作家協会新人戯曲賞(該当作なし)佳作に選ばれました。女性の幼少期から更年期までの心と体の変化と、ジェンダーを巡るこの50年の社会の在り方に焦点を当てた物語は、プロの俳優たちによるリーディング作品となり、動画投稿サイト「ユーチューブ」で無料配信中です。日本劇作家協会から演出を任された日澤雄介さんに、戯曲から何を感じ、どう形にしようとしたのかを聞きました。
- 目次
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- ・ 女性の問題 真っすぐ丁寧に
- ・ 「揺れる木馬」視覚的に表現
- ・ 男性も共感できる作品に
- ・ 作品情報
- ・ プロフィル
女性の問題 真っすぐ丁寧に
―戯曲を読んだ印象や演出のポイントは。
選出作品が決まる前に、日本劇作家協会から演出の依頼を受けていました。作品に描かれていた女性の心と体の悩みは、男性の僕には分からないことなので作品が決まった時は正直、「手ごわいのが来たぞ」と感じました。女性特有の問題などが真っすぐ丁寧に書かれていると思ったので、それを間違いなくお客さまに届けるにはどうすればいいのかを、まず考えました。
「初潮」「月経」「閉経」などの言葉も、男性作家の作品にはなかなか出てこないでしょう。オブラートに包まず、手心を加えないでストレートにいこうと。閉経した女性4人がおしゃべりするシーンでは、体の悩みなどちょっと異性に聞かれると恥ずかしいような内容でも、カラッといきたかったですね。俳優たちもよく分かって、演じてくれていました。
また、作品の特徴として多くのシーンと登場人物が出てくるので、その面白さをどう伝えようかなとも思いました。「チリリン」という鈴の音を時代の移り変わりで差し入れることによって、緊張感やめりはりを持たせようとしました。
「揺れる木馬」視覚的に表現
―戯曲では、主人公・花子の女性ホルモンを「ばあや」という役名のおばあちゃんとして登場させました。
ばあやは花子の最大の理解者であり、鏡で見る自分のような存在です。そのばあやが木馬を揺らすことで、花子自身の心身の揺らぎを表現しているので、動きの表現に制約のあるリーディングの中でも、「揺れる木馬」をどう表現しようかと苦心しました。俳優がト書き(登場人物の動作や行動などを指示したせりふ以外の文章)を読むだけではなくて、お客さまの印象に残る方法を考えたので、そこも見ていただきたいですね。
―俳優さんたちの演技や表現力が素晴らしいと感じました。
花子と幼なじみの幸子の対比も際立たせています。親の価値観などにとらわれてこじらせた花子と、男性社会の中で生きていく処世術を身に付け、打算的な面もある幸子との違いを俳優の演技によっても、うまく見せたかったです。また、花子の父親や夫、職場の上司など登場する男性たちは、花子を生きづらくさせる存在として戯曲の中で描かれています。花子の目を通した男性たちの姿なので、俳優たちにはちょっと露悪的に振り切って演じてもらいました。男性側にも言い分はあるでしょうけど、いかに女性が見えていないかというのを表したかったんです。
男性も共感できる作品に
ーこの作品を書いた動機の一つに、女性を取り巻く状況を男性にも当事者意識を持って考えてほしいという思いがありました。
育児に消極的な主人公の夫が、「仕事が忙しい」などと言い訳するせりふがありますが、同じ男性としては思わず言ってしまいそうだなと思って反省しました。職場の上司が妊娠中の花子に投げ掛ける「(妊婦の)扱い方がよく分からない」というせりふも、悪意はないかもしれないけど受け取る側にはきつい言葉だな、と思ったりね。
僕にも同い年の妻がいますが、作品の中に描かれている女性の年齢ごとの心と体の変化を、男性が自分のパートナーと照らし合わせて考えると女性に優しくなれるのではないでしょうか。男性にも共感する部分は多いと思いますよ。
作品情報
リーディング「わたしのそばの、ゆれる木馬」
作:仁科久美
演出:日澤雄介
出演:小山萌子、高畑こと美、山本郁子、七味まゆ味、西尾友樹、山田宏平、石田迪子
配信URL:https://youtu.be/-99tnJvgnZY(日本劇作家協会ホームページからも見られます)
プロフィル
ひさわ・ゆうすけ 1976年生まれ。東京都出身。2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げ。12年に「親愛なる我が総統」で若手演出家コンクール最優秀賞。14年と17年、21年に読売演劇大賞優秀演出家賞など。自身主宰の劇団では、劇作家古川健とのコンビで「治天ノ君」(13年)、「帰還不能点」(21年)など歴史物を中心とした作品を次々と発表。外部公演の演出も多く、最近では「蜘蛛女のキス」(21年)「M.バタフライ」(22年)、「アルキメデスの大戦」(同)など。