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映画「ある役者達の風景」を監督した沖正人さん

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新型コロナウイルスの感染拡大で劇場や映画館の営業自粛が広がる中、12分の短編「ある役者達の風景」が動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップされました。演劇は「不要不急」と言われながらも、主演の大谷亮介さん、中西良太さんらベテラン俳優が「密」を避けながら多摩川(東京)の河原で芝居の稽古に励む姿を追った映像です。これが評判となり、新たに同じタイトルの長編映画となって全国で順次公開されています。5月12日から17日まで、八丁座(広島市中区)で上映されるのを前に、江田島市出身の沖正人監督に作品への思いを聞きました。

密避けて「何かやるか」が始まり

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

―この作品が生まれたきっかけは。

自粛中でスケジュールも空白になった2020年5月に、20年以上も親しくお付き合いしている大谷さんから、「沖ちゃんカメラを回して」と頼まれたのが始まりです。大谷さんが俳優仲間の中西さんに誘われて、「やることないし、何かやるか」という話になったそうで。

足場の悪い河原で、大谷さんの後輩の草野とおるさんがウクレレを演奏。それに合わせて大谷さんと中西さんが稽古を始めるものの、マスクや距離の取り方など「新しい生活様式」に戸惑い、言い争うばかりで芝居が全く進まない―というコミカルな短編動画になりました。撮影4時間、制作費0円のささやかな作品をユーチューブに上げると、「動きを止めないベテラン俳優の心意気」という内容で、NHKの番組や週刊誌に特集として取り上げられました。その反響は大きく、応援してくださる方が増えて半年後には長編の撮影をスタートさせました。

 

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

短編の評判と大谷さんの人徳のおかげで、長編には小野武彦さんや六角精児さん、余貴美子さん、キムラ緑子さんら名だたるバイプレーヤーたちが続々と出演してくれました。皆さん快く力を貸してくださって。「ギャラより差し入れの方が高いんじゃないか」と恐縮しました。

映画で演劇人の「憂さ晴らし」

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

―コロナ禍での俳優たちの苦境がリアリティーに満ちています。

大谷さんや中西さんと取り組んだ脚本には、彼らの実話を盛り込みました。舞台俳優・演出家として受賞歴もあり、その道ではトップクラスの大谷さんでさえ、ずっと稽古していたのに本番直前になって中止になるなど苦労が絶えませんでした。そんなエピソードの本人役を大谷さんらメインキャスト3人が演じているので、ドキュメンタリーに近いかもしれません。

 

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

―どんな時でも、表現せずにはいられない俳優たちの執念をひしひしと感じます。

作品には、小劇場と野外での劇中劇が登場します。大谷さんは劇中劇に命を懸けると言ってもいいほど頑張って、こだわり抜きました。アイデアをどんどん提案してくれるのはいいのですが、予算が膨らんだり、調整が大変だったりするので難色を示すと「やりたいこと全部やらせてくれるって言ったよね」と反論されるんです。

とはいえ、大谷さんや中西さんという大先輩に映画の中で演劇を思い切りやってもらおう、コロナ禍での鬱積(うっせき)を全部吐き出してもらいたい、というのが作品における僕のテーマでしたからね。「見守りながら撮る」ことに徹しました。ラスト近くの野外劇のシーンは、芝居を止めることなく3回通してもらって、5台のカメラで位置を変えながら撮影しました。70代手前の大ベテランたちがあがいている姿に、若い人たちは勇気づけられるのではないでしょうか。

新作は江田島で撮影

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

―次の作品も期待されています。

故郷の江田島が舞台の映画「やがて海になる」を準備しています。江田島で育ち、大人になってからはそれぞれの道を歩む幼なじみ3人の物語です。また、江田島市が市制施行20周年になる2024年は古里で映画祭をやろうと企画しています。江田島という地域を生かした映画祭にして、大勢の映画関係者に来てもらいたいと地元の人たちと計画を練っています。映画祭を盛り上げるためにも、まずは僕自身がしっかりとした作品を撮りたいですね。

プロフィル

 

おき・まさと 1975年生まれ、江田島市出身。映像ディレクター・海老沢憲一氏とのユニット「コーエンジ・ブラザーズ」での初監督作品となる短編「BOURBON TALK」(2018年)が国内外の映画祭で評価され、東京などの映画館でオムニバスとして公開。2作目の初長編映画「お口の濃い人」(19年)が函館港イルミナシオン映画祭オーディエンス・アワードを受賞。短編の「ある役者達の風景」もながおか映画祭/第23回長岡インディーズムービーコンペティション2021審査員特別賞など。ミニシアターを舞台にした4人の監督によるオムニバス映画「THEATERS」の公開も控えている。

作品情報

Ⓒ2021「ある役者達の風景」製作委員会

 

映画「ある役者達の風景」

監督:沖正人

脚本:沖正人、中西良太、秋庭亮

出演:大谷亮介、中西良太、草野とおる、モロ師岡、半海一晃、マギー、余貴美子、高畑裕太、

小野武彦、六角精児、勝村政信、鈴木一功、不破万作、渡辺哲、篠井英介、深沢敦、キムラ緑子、山田まりやほか

上映館:八丁座(広島市中区)

「ある役者達の風景」公式サイト

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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