映画「いのちの停車場」インタビュー/吉永小百合さん、田中泯さん、成島出監督 | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「いのちの停車場」インタビュー/吉永小百合さん、田中泯さん、成島出監督

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吉永小百合が在宅医療の医師を演じた映画「いのちの停車場」が、全国の映画館(一部地域を除く)で公開中です。ターミナルケアや老老介護、尊厳死、安楽死など医療現場が抱える問題やタブーに正面から向き合い、命の見送り方や終え方を考えさせられる作品になっています。公開に合わせて、主演の吉永小百合と共演の田中泯、成島出監督が広島市を訪れ、見どころや作品への思いを語りました。

ストーリー

東京の救命救急センターで働いていた医師の咲和子(吉永小百合)は、病院の職員聖二(松坂桃李)が起こしたある事件をきっかけに故郷の金沢に帰り、在宅医療に取り組む「まほろば診療所」で働き始める。迷い、戸惑いながらも院長の仙川(西田敏行)、訪問看護師の麻世(広瀬すず)、後に診療所の仲間となる聖二とともに在宅医療を選んだ患者やその家族を支え、寄り添っていく。そんなある日、咲和子の父達郎(田中泯)が倒れてしまう…。

©2021「いのちの停車場」製作委員会

命に寄り添う大切さ 伝える

―吉永さんは60年以上の芸歴の中で、初めての医師の役と聞きました。しかも、在宅医療に取り組むドクターですね。

吉永 撮影に入る前は、在宅医療について全く知りませんでした。咲和子という役を通して、在宅医療は患者さんを治療するだけでなく、心も含めてしっかり支え、寄り添わなければできないと認識しました。救命救急の医師だった咲和子が最初は在宅医療の本質を理解していなくて、広瀬すずさん演じる看護師に叱られるシーンは印象的です。映画には7組の患者と家族がオムニバスのようにストーリーを紡ぎ、咲和子たちはさまざまな「命のしまい方」を見届けます。患者役で出演した方たちの素晴らしい演技を受け止め、確かめながら演じることができ、俳優として幸せな時間を過ごせました。

 

―コロナ禍で、人々の命との向き合い方が変化したように感じます。命をテーマにした作品だからこそ、伝えたい思いもあるのでは。

吉永 この映画の準備に入ったころ、志村けんさんや岡江久美子さんがご家族にみとられないまま、新型コロナウイルスのために亡くなって、とても悲しくつらく感じました。一人一人の命が天国に召される時に家族や親しい人たちにどう見守られるのかが、大切なんだと。そういうことを伝えられる映画だと思います。

田中 誰もが避けられない死について、コロナ禍のために高齢の方だけでなく若い人たちも考えざるを得なくなりました。私たちは死を前提として生きているわけで、明日があるから今を生きるのではなく、「一日一生」だと思い至る方も多いのではないでしょうか。この作品のように、患者と医療関係者、家族とが「寄り添い合う」関係を築くことこそ、世界はもっと必要としていますね。

成島 感染症対策を講じた中での撮影は正直、大変でした。俳優たちはマスクをして演技をしませんから、テストを繰り返せず、一発勝負のような撮影が日常化した現場でした。吉永さんは完璧に仕上げて現場に入るので、桃李君ら若い俳優たちも刺激を受け、緊張感を持って演じてくれました。おかげで生っぽいドキュメンタリーのような作品になったと感じています。

 

悩み抜いたラストシーン

―吉永さんと田中さんは同年齢ですが、親子を演じました。

成島 吉永さんのお父さん役には田中さんしかいないと、制作関係者の間では満場一致で決まりました。田中さんに電話で、「吉永さんの父親役で」というと「えーっ」と驚かれたのを覚えています。監督としては、この親子で正解だったと思っているんですよ。

吉永 「たそがれ清兵衛」(2002年)という映画を見て、素晴らしい俳優さんだと感じていたので、共演できて本当にラッキーでした。田中さんと誕生日が3日しか違わない私が、こんなにダンディーですてきな方を「お父さん」と呼んでしまって。田中さんに申し訳なかったですね。

田中 僕は踊りばかりやってきて、俳優としては吉永さんのキャリアと比べるのも恥ずかしいひよっこです。といっても、お父さんになるのは意外に簡単でした。吉永さんが現場で娘としていてくれるだけで、年齢を超えて無理なく演じられました。

 

―ラストは、この映画を語る上で欠くことのできないシーンです。咲和子が激痛を伴う病に苦しむ父の願いにどう応じるのか難しい選択を迫られ、尊厳死や安楽死の問題にも踏み込みます。

吉永 大変難しいシーンでした。お父さんの願いに寄り添って、娘としてどうしてあげたら父のためになるのか、とにかくそばにいてあげたい、そういう気持ちだけで現場にいました。私の実父は食べ物を喉に詰まらせる事故で3カ月ほど心臓だけ動いている状態になり、亡くなったんですね。その時のことも思い出してしまいましたね。

田中 耐え難い痛みに苦しむ役ですが、ラストシーンは監督から「生の終わりの美しさを見せられないか」と言われ、意識から解放されて感覚の海の中に沈んでいくような、そんなイメージで演技をしました。最後のせりふに、本当に救われた思いでした。

成島 ラストについては、悩みに悩み抜きました。最初の企画ではサスペンス的な要素も検討されていました。しかし、亡くなる人を家族がみとれないような事態に陥っているコロナ禍で、そういう作品ではないと考えました。とはいえ、どう演出するのか答えを出せないまま撮影の当日を迎えました。どのようなシーンになったかは、ぜひ映画を見て確かめていただけたらありがたいです。

 

©2021「いのちの停車場」製作委員会

プロフィル

よしなが・さゆり 1945年東京都生まれ。「朝を呼ぶ口笛」(59年)で映画デビュー。「キューポラのある街」(62年)「華の乱」(88年)「北のカナリアたち」(2012年)など。成島出監督との「ふしぎな岬の物語」(14年)は、モントリオール世界映画祭で審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞を受賞。近作は「最高の人生の見つけ方」(19年)

 

たなか・みん 1945年東京都生まれ。74年からダンサーとしての独自の活動をスタートさせ、「ハイパーダンス」と称した新しいスタイルを生み出した。78年パリ秋の芸術祭で海外デビュー。その後も数多くの国際舞台でパフォーマンスを披露。「たそがれ清兵衛」(2002年)で映画初出演。「峠 最後のサムライ」「HOKUSAI」が21年公開予定

 

なるしま・いずる 1961年甲府市生まれ。「大阪極道戦争 しのいだれ」(94年)で脚本家デビュー、「油断大敵」(2003年)で映画監督デビュー。「孤高のメス」(10年)「八日目の蟬」(11年) 「ふしぎな岬の物語」(14年)「ソロモンの偽証」(15年)。近作に「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」(20年)

 

 

作品情報

©2021「いのちの停車場」製作委員会

「いのちの停車場」

出演:吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず、南野陽子、柳葉敏郎、小池栄子、みなみらんぼう、泉谷しげる、石田ゆり子、田中泯、西田敏行

監督:成島出 脚本:平松恵美子 原作:南杏子「いのちの停車場」(幻冬舎)

広島県内の上映館:広島バルト11/八丁座/TOHOシネマズ緑井/109シネマズ広島/イオンシネマ広島/イオンシネマ広島西風新都/T・ジョイ東広島/福山駅前シネマモード/エーガル8 シネマズ/福山コロナワールド

公式サイト https://teisha-ba.jp/

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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