映画「犬ころたちの唄」で話題 新作に取り組む映画監督・俳優の前田多美さん
個性豊かな広島のミュージシャンたちをキャスティングし、広島市西区の横川かいわいを舞台に独特の世界を紡ぎ出した映画「犬ころたちの唄」。俳優でもある前田多美監督の自主制作作品として2021年秋に横川シネマでお披露目して以降、東京や大阪など全国13カ所の映画館で公開され、評判となりました。23年5月にはDVDも発売し、上映のなかったエリアの人たちにも作品の魅力が広がっています。秋にクランクインを予定している次回作の準備のために、広島の街を駆け回っている前田監督に話を聞きました。
- 目次
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- ・ 広島のミュージシャンが主演
- ・ 地道な宣伝 ロケ地横川の応援も力に
- ・ 新作は「男たちの友情」の物語
- ・ プロフィル
- ・ 作品情報
広島のミュージシャンが主演
―「犬ころたちの唄」には、広島の音楽シーンや横川という街の魅力が詰まっていました。
男性3人のバンド「深夜兄弟」と出会って、「本当に3兄弟だったら」という発想から物語が生まれました。父親の三十三回忌を目前に控えたある日、長男の元に音信不通だった異母妹から便りがあり…というストーリー。長男を演じたミカカさんは、演技やパワフルな歌声で作品の支柱となってくれました。彼の楽曲を深夜兄弟が歌った「遠くの友達」も、主題歌として重要な役割を果たしました。
また、深夜兄弟がよくライブを開く横川の古書店「本と自由」の店主・青山修三さんも本人役で出演し、現実とフィクションの交差点に位置する人物として存在感を発揮してくださいました。流行とは無関係の、純粋なカルチャーが息づいている横川のたたずまいが残せたと思っています。
新型コロナウイルスの感染が広がっていた最中での映画作りは、変則的な方法を取りました。密を避けるために少人数のスタッフで、月に数日のペースを保ちながら短編3本を撮影し、その合間に劇場版のための追加撮影もこなしました。短編をインターネットで配信し、一方で短編を解体して長編に再構築。構成・編集で参加してくださった村松正浩監督と「短編と長編、どちらも楽しめるようにしたい」と随分悩みながら、取り組みました。おかげで、配信を見た人が、映画館では「え、こういうこと?」と驚く作品になりました。
地道な宣伝 ロケ地横川の応援も力に
―全国13カ所での上映が実現し、成果を上げましたね。
遠方であっても、宣伝のために上映の1カ月前には劇場を訪れて、周辺の店などに「ポスターを貼っていただけませんか」と声を掛けて歩きました。公開の時にも、もちろん舞台あいさつでうかがいました。そうしているうちに、交流サイト(SNS)のリアクションがじわじわと増えていきました。やり続けていれば、いつの間にか届くんだなと。DVDを制作したのは、「SNSで気になっていたのに、うちの街では上映がなくて残念」という声に応えたかったのも理由の一つです。また、横川の方たちの応援も力になりました。とりわけ、横川シネマの溝口徹支配人が早々と公開を決めてくださったおかげで、他の地域での上映に結び付いたと感謝しています。
新作は「男たちの友情」の物語
―監督と脚本、プロデューサーも兼ねる新作は、どんな物語になりそうですか。
「犬ころたちの唄」をご覧になった俳優さんから、声を掛けていただきました。ミカカさんにも再登板してもらって、ミュージシャンたちの男の友情を軸とした脚本を書いています。私より年上の大人世代の方たちが挑戦する姿を見せたいので、ミカカさんにはさらにハードルの高い芝居にチャレンジしてもらいます。ロケ地は横川やJR広島駅西側の「エキニシ」(南区)、十日市(中区)辺りになりそうです。
前作より予算も必要なので、資金集めにも力を入れています。広島は温かく話を聞いてくださる方も多く、ありがたいなと思います。とはいえ、日本では無名の若手クリエーターに先行投資して育成しようとする文化が根付いているとはいえない状況なので、苦労が少なくありません。私が多くの役割を兼務しているので、キャスティングのための交渉や楽曲などの使用許可申請など、やることが山積みです。それでも、前作を超えるクオリティーの作品に仕上げたいです。
―映画づくりに、全力投球ですね。
私は映画を作ることにしか、運が向いてこない。最近、自分の人生が映画に引っ張られていると感じています。思春期の頃、イチロー選手に憧れていました。オリックス時代に、「毎日こつこつ積み重ねて、今の自分を少しずつ超えていくとある日、違う景色が見えてくる」と話していたのが、印象に残っています。私も積み重ねていくしかないんだなと腹をくくっています。
プロフィル
まえだ・たみ 1983年生まれ、大阪府出身。今泉力哉監督の「tarpaulin」(12年)、山下敦弘監督の「ありふれたライブテープにFocus」(13年)でスクリーンデビュー。オール広島ロケの平波亘監督作品「トムソーヤーとハックルベリーフィンは死んだ」(同年)の出演がきっかけとなって16年、広島市に移住。俳優活動とともに監督業にも乗り出し、初長編の「カノンの町のマーチ」(18年)、「光をとめる」(20年)、MV「工藤祐次郎/リンドウ」(同年)。長編2作目の「犬ころたちの唄」は第36回高崎映画祭でも上映。
作品情報
映画「犬ころたちの唄」
監督;前田多美
脚本:梶田真悟
出演:ミカカ、Jacky、のっこん(以上深夜兄弟)、前田多美ほか
※短編と長編を収録したDVDは映画の公式ホームページ(https://donutsfilms.theshop.jp/)、「本と自由」(広島市西区横川町3丁目4−14、https://hontojiyuu.com/)「ミカカカフェ」(広島市南区大須賀町13−17)でも販売中