尾道の映画「高野豆腐店の春」でコンビを組んだ 映画監督・三原光尋さんと俳優・藤竜也さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

尾道の映画「高野豆腐店の春」でコンビを組んだ 映画監督・三原光尋さんと俳優・藤竜也さん

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尾道市で撮影された映画「高野(たかの)豆腐店の春」が18日から、八丁座(広島市中区)など広島県内の映画館で公開されます。小さな港町でささやかな豆腐店を営む父と娘の、悲喜こもごもの人生を描いた物語。頑固だけどチャーミングな父親をデビュー60周年の藤竜也さん、しっかり者の娘を麻生久美子さんが演じ、互いを思う2人の温かいやりとりが作品の見どころになっています。コンビを組んで3作目という三原光尋監督と藤竜也さんに話を聞きました。

映画のふるさと「尾道」が呼んだ作品

 

―尾道と豆腐店、そして藤さんという組み合わせは、どのように生まれましたか。
三原 新型コロナウイルスの感染拡大で自粛生活となった3年ほど前、「もう映画が撮れないのでは」と不安が募りました。「あともう1本、こんな作品を作ってみたい」と、近所にある昔ながらの豆腐屋さんをモデルに藤さんを主演と想定して、脚本を書き上げました。映画になる当てもないのに、藤さんにラブレターとして送ったんです。
 私はすぐに返事を書きましてね、「お待ちしていますから、頑張って」と。送られてきた脚本を読んで、「日々つつがなく過ごせることが素晴らしい」と言いたいのだろうなと、人間関係が途切れがちだったコロナ下でそう思いましたね。また、戦争や被爆体験なども登場人物のバックグラウンドとして描かれていて、重層的でいい脚本だなと思いました。

 

 

三原 プロデューサーとロケ地を探して、瀬戸内海沿いを回りました。尾道を訪れた瞬間に「ここしかない」と思いました。この港町でのささやかな暮らしの中にお豆腐屋さんがあったらなと。作品がうまく運ぶ時って、その土地が呼んでくれる感じがします。尾道もそうでした。この作品ではとりわけ、生活の匂いがある場所をロケ地に選びました。藤さんもロケハンに参加してくださったんですよ。
 全てを役の中にインプットしようと思いながら、尾道を巡りました。私が演じた辰雄はこんな居酒屋で飲むのだろうな、などと思いながらね。そういう時、自分自身を消してしまいます。役者は肉体さえあればいい。心を演じる役に渡してしまうんです。

「ずるい設定」に胸がいっぱい

 

―劇中では、観客にとっては意外な真実が父と娘の関係に隠されていますね。
 最初に脚本を読んだ時、「そうきたか」と思って泣いてしまいましたね。そういった過去を背負って、この父と娘は生きてきたのかと。黙って豆腐を一緒に作っている2人を思うと、胸がいっぱいになります。あれは、ずるい設定ですよ。
三原 辰雄や娘の春にも、彼らを取り巻く商店街の人たちにも、それぞれの大切な人生があります。名もない人たちの「生」をきちっと丁寧に描きたいという思いがありました。その上で、藤さんがおっしゃる「ずるい設定」を作ったからこそ、親子とは何かを描こうとしたように感じます。映画監督としての「三原君」はすぐ弱気になって、へこたれそうになるんですが、脚本家の「三原君」はすごく頑張るんです。
 映画は1に脚本、2に脚本、3に脚本ですよ。設計図が確かでなければ、建物は建てられない。監督は4番目ぐらいでいいんです。

「生きることを肯定」に共感

 

―「村の写真集」(2005年)、「しあわせのかおり」(08年)に続き、コンビは3作目。映画人としてのお互いの良さはどこにありますか。
 うまく言えませんが、スクリーンの中に藤さんがいてくださると思うだけで、私の目指す作品、理想の映画が見えてきます。邪心がなくなって余計な考えが消え、ひたすらワンカットを積み重ねていくだけ。大豆と水、にがりだけで作る豆腐と同じようにシンプルな仕事ができます。藤さんは、私にとってそういう俳優さんです。4作目もぜひ、撮りたいですね。
 ありがたい言葉です。役作りというのは役の人物に入り込もうとするわけですから、果てしない。むなしい闘いを続けているのかもしれません。そうであったとしても、80歳を過ぎてなおやらせていただけるのは幸せです。三原監督は作品の中で、人間の生をストレートに肯定しています。「生きるって、何があろうともすてきなことだよ」と映画の中で常に表現されていて、素晴らしいですね。

プロフィル

 

みはら・みつひろ 1964年生まれ、京都府出身。「ヒロイン!なにわボンバーズ」(98年)で映画デビュー。「村の写真集」(2005年)が上海国際映画祭で最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(藤竜也)。「あしたになれば。」(15年)、「広告会社、男子寮のおかずくん劇場版」(19年)、「オレンジ・ランプ」(22年)など。10月には「アントニオ猪木をさがして」も公開。

ふじ・たつや 1941年生まれ、神奈川県出身。日活に入社した62年、「望郷の海」でデビュー。「愛のコリーダ」(76年)、「愛の亡霊」(78年)の大島渚作品で海外でも高く評価される。近年では、「龍三と七人の子分たち」(2015年)、「初恋 お父さん、チビがいなくなりました」(19年)、「それいけ!ゲートボールさくら組」(23年)など。

作品情報

映画「高野豆腐店の春」
監督・脚本:三原光尋
出演:藤竜也、麻生久美子、中村久美、徳井優、山田雅人、日向丈、竹内郁子、菅原大吉ほか
広島県内の上映館:イオンシネマ広島西風新都、八丁座、福山駅前シネマモード、シネマ尾道

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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