愛知芸術劇場で作品が上演 岡山市在住の劇作家・守安久二子さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

愛知芸術劇場で作品が上演 岡山市在住の劇作家・守安久二子さん

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アラフィフで戯曲の執筆を始め、才能を開花させている岡山市在住の劇作家・守安久二子さん。2022年の第21回AAF戯曲賞大賞に選ばれた「鮭(しゃけ)なら死んでるひよこたち」が23年11月24日から3日間、愛知県芸術劇場小ホール(名古屋市)で、24年2月には福岡市と札幌市で上演されます。ファンタジックで不思議なムードが漂う物語には、自然の摂理の下では無力でささやかな「命」について考えさせられる要素がちりばめられています。受賞作品や執筆への思いについて、守安さんに聞きました。(写真は「鮭なら死んでるひよこたち」座組のメンバー)

「カラーひよこ」モチーフの一つに

楽しそうに稽古する出演者たち

 

―多彩な解釈ができる作品です。うさんくさい登場人物たちが面白いですね。

楽しい作品にしたいとイメージの赴くまま書き始め、最終的には現実と空想、幼少期の記憶と今の人生観が交じり合った世界になりました。小学生の頃、校門前でカラーひよこを売っていた怪しげなテキ屋のおじさんが、強烈な印象として私の中に残っています。調べてみると、着色されたひよこは卵を産めないオスで、用途がないために愛玩用として売られたり、簡単に殺処分されたりする存在なんですね。親や先生が教えてはくれなかった裏の世界を、そこはかとなく感じながら私も大人になったんだなと。劇中には、そんな記憶を反映した人物や描写が出てきます。

 

また、子育てを全て終えた私自身の実感も、作品に影響しています。子どもを育てることで自分のアイデンティティーを築いてきたけれど、これからはどうやってこの身を維持していくのか。産卵すると寿命が尽きるサケだったら、私はもう死んでいるんじゃないか―。そういった喪失感をにじませた人物やせりふもあります。

 

生きている誰もが「時間の流れ」と「死」を平等に与えられ、どんな境遇であろうと、私たちは命ある限りただ生きていくだけです。しかも、連綿と続く生と死の繰り返しの中では一人一人が「点」に過ぎません。残酷で切ない自然の摂理ですよね。書きたかったのは、そういうことだったのかなあと今になって感じています。

社会にすがる人の「さが」描く

8月に札幌市で開かれた「ワーク・イン・プログレス」

 

―「絶望の果て検証委員会」など謎の委員会が出てくるのも印象的です。

安倍政権が18年、教育の無償化などを柱に掲げた「人づくり革命」という施策のネーミングにびっくりし、あきれたのがヒントになりました。「委員会」とは、社会の中にある多様な組織や枠組みの隠喩です。私たちは批判をしながらも社会にすがり、頼って生きています。そういった人間のさがを描いたつもりです。

 

―どんな舞台になるのか、楽しみですね。

AAF戯曲賞の審査員も務めた劇作家・演出家・俳優の羊屋白玉さん(指輪ホテル主宰)が演出を担い、個性派俳優として知られる神戸浩さんら5人の俳優と創作してくださっています。3月から愛知県芸術劇場で本読みなどの稽古に入り、8月には羊屋さんの出身地である札幌市で合宿があった後、創作過程を一般公開する「ワーク・イン・プログレス」が実施されました。神戸さんが私の書いたせりふについて、「人生は何故(なぜ)終わりがあるのかな!寂しいですね」とLINE(ライン)で書き送ってくださったのが、とてもうれしかったです。

言葉による表現を手に

稽古中の出演者

 

―戯曲を書き始めたのは50代から。活躍が止まりません。

小学校のお楽しみ会で、水戸黄門とギャグ漫画家・谷岡ヤスジの作風を合体させたような話をつくって友達と劇を披露し、大爆笑を取りました。20代では、カルチャースクールのシナリオ講座に通ったこともあるので昔から脚本家などに憧れがあったのでしょうね。

 

NPO法人アートファーム(岡山市)の短編戯曲講座を14年に受講し、当時の講師で今も指導を受けている劇作家・演出家の田辺剛さん(下鴨車窓主宰)に出会えたのが、書き続けられるきっかけとなりました。地方の家族を描いた初の長編戯曲「草の家」が19年、愛媛県東温市の主催するアートヴィレッジTOON戯曲賞の大賞と観客賞をいただきました。同市での受賞記念公演だけでなく、21年には岡山市出身で劇作家・演出家の坂手洋二さんが率いる劇団「燐光群」によって、東京下北沢の劇場で上演されました。私の紡いだ作品を演出家や俳優によって表現される体験ができ、本当に感激しました。

 

私たちの世代は、女性なら「いいお母さん」になるのが当たり前。子育ても一生懸命したし、家族の絆も大切にしてきたけれど、一方で「本当の私じゃない」という思いを抱え続けてきたように感じています。戯曲というツールを手にし、言葉による自分自身の表現を見つけられた幸せとともに、これからも作品を生み出していきたいですね。

プロフィル

 

もりやす・くにこ 1960年生まれ、東京都出身。団体職員。結婚後の30代半ばで岡山市に移り住み、2014年から戯曲の執筆を始める。初の長編作品「草の家」が19年、アートヴィレッジTOON戯曲賞大賞と観客賞。JMSアステールプラザ(広島市中区)の演劇学校劇作家コースなどで執筆した「鮭なら死んでるひよこたち」が22年、第21回AAF戯曲賞大賞。

作品情報

舞台「鮭なら死んでるひよこたち」

会場:愛知県芸術劇場小ホール

日時:2023年11月24日(金)~26日(日)の3回公演

戯曲:守安久二子

演出:羊屋白玉

出演:遠藤麻衣、神戸浩、スズエダフサコ、田坂哲郎、リンノスケ

※福岡公演は24年2月16、17日になみきスクエア(福岡市)、札幌公演は22、23日に生活支援型文化施設コンカリーニョ(札幌市)で開催

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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