「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の脚本、監督 井上淳一さん
刺激的な作品を次々と世に送り出した故若松孝二監督が1983年、自分の作品を上映するためにつくった映画館「シネマスコーレ」(名古屋市)。インディペンデント作品を積極的に上映するミニシアターの草分けとして知られています。そこに集った人々を生き生きと描いた映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」が広島県内では22日以降、サロンシネマ(広島市中区)とシネマ尾道(尾道市)で公開されます。若松監督や同シアターの木全(きまた)純治支配人(現代表)ら実在の人物が実名で描かれる群像劇。井上淳一監督自身も若松監督に弟子入りする名古屋の映画少年として登場します。作品に込めた思いを、井上監督に聞きました。
- 目次
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- ・ 苦境続くミニシアター助けに
- ・ 80年代の空気 いきいきと
- ・ 「恩を受けた」のは自分
- ・ プロフィル
- ・ 作品情報
苦境続くミニシアター助けに
―若松プロの若者たちが活写された「止められるか、俺たちを」(2018年、白石和彌監督)から10年ほど後の1980年代を描いています。「2」を企画したいきさつは。
木全さんとは40年ほどの付き合いがあります。2022年公開のドキュメンタリー映画「シネマスコーレを解剖する―コロナなんかぶっ飛ばせ―」のパンフレットに、冗談で「シネマスコーレの黎明(れいめい)期をやりませんか」と書いたのが、始まりでした。
映画はこれまで、三つの危機を経験しています。テレビとレンタルビデオ、そして配信の出現です。若松監督がシネマスコーレを開館した1980年代はビデオの普及で、映画館から人々の足が遠のいた頃でした。それでも、何とか映画は生き残っています。シネマスコーレの設立当初を描けば、苦境が続くミニシアターのための何かが見えるのではと。また、映画に魅せられながらも挫折して死んでいく若者を描いた前作とは異なり、この作品は才能がなくても映画にしがみついて生きていく者の物語にしようと思いました。
80年代の空気 いきいきと
木全さん㊧と木全さんを演じた東出さん
―井浦新さん演じる若松監督、東出昌大さんの木全さんの人間臭さが、魅力的です。
前作でも若松監督を演じた井浦さんは、自分の年齢に近い監督を演じ、父性をにじませています。井浦さんが撮影中に「イノウエ!」と叫ぶと、井上淳一役の杉田雷麟(らいる)君を差し置いて僕が思わず「ハイ!」と返事してしまうほど似ています。
東出さんは長身を折り曲げ、若松監督にむちゃぶりされながらも常に前向きな木全さんになり切っています。せりふは標準語でいいと伝えていても、1日で名古屋弁を入れてくれるほど役作りに熱心でした。2人ともものまねから入っていながら、役柄の本質をつかんでいます。
―「シラケ世代」などの言葉か生まれた80年代が意外にも熱く感じ、コンプライアンスを重視する今がつまらなく感じます。
若松監督にいくらどやされても、かつての僕は一度もパワハラを受けたとは思いませんでした。それだけ、人間の幅や余白を若松監督が持ち合わせていたからでしょう。もちろんパワハラを肯定しているわけではありませんが、人との距離が近くて傷つけられもするけど、そういった関係の中でしか生まれない学びがあったんだと思います。現在の息苦しさは、表現の分野にも浸食しているように感じますね。
一方で、学生運動の残り香すらないバブル前夜のあの頃、劇中の井上ら表現者を志望する若者たちに通底していた悩みは、「表現せずにはいられない『何か』がない」ことだったように思います。そういった空虚さは、現代の若者にも通じるのではないでしょうか。
―架空のキャラクターである「金本」という女性が、この時代の負の部分を背負っています。
シネマスコーレでバイトする金本は映画監督を志望しながら、女性で在日という出自にコンプレックスを抱えていて、若松監督に弟子入りを認めてもらう井上と対比的に描いています。圧倒的な男性社会だった当時の映画業界を、金本を通して相対化したいと思いました。
「恩を受けた」のは自分
―映画だけでなく、ミニシアターへの愛にあふれています。
「スコーレ」はラテン語で学校という意味。シネマスコーレという学びやで「出会い」が重なっていく映画になったと感じています。「才能のゆりかご」と表現した人がいますが、映画監督の誰もが通過して世に出ていくミニシアターは、映画人にとって貴重な学びの場です。また、ミニシアターでしか見られない作品も数多くあり、「表現の自由」の最前線といえます。経営が厳しいミニシアターを、この作品で少しでも支えていけたら。そう言いながらも、映画とミニシアター、そしてお世話になった今は亡き映画人たちに「恩返ししたい」と思ってつくった作品から、恩を受けているのはやっぱり自分の方なんだなと感じますね。
プロフィル
いのうえ・じゅんいち 1965年生まれ、愛知県出身。早稲田大在学中から故若松孝二監督に師事。監督作品に「戦争と一人の女」(2013年)、「大地を受け継ぐ」(15年)、「誰がために憲法はある」(19年)。同作で第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞。脚本作品に「あいときぼうのまち」(14年)、「止められるか、俺たちを」(18年)、「REVOLUTION+1」(22年)、「福田村事件」(23年)など。
作品情報
映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
脚本・監督:井上淳一
出演:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイほか。
広島県内の上映館:サロンシネマ(22日~)、シネマ尾道(23日~)