初の本格小説「三人」を出版した 作家・放送作家 桝本壮志さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

初の本格小説「三人」を出版した 作家・放送作家 桝本壮志さん

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主人公の「僕」は30代半ばの売れないお笑い芸人。人気芸人の佐伯、放送作家の相馬とシェアハウスで暮らしている。3人は芸人養成所の同期。売れて仕事に追われる佐伯と相馬の横で、「僕」には仕事がない。「僕」の胸には焦りと不安がうずまく―。

お笑いの世界に生きる若者たちの友情と心の在りようをリアルに描いた青春小説「三人」(文藝春秋)が今、注目を集めています。著者は、広島市出身の作家・桝本壮志さん。多くのレギュラー番組を抱える人気放送作家で吉本総合芸能学院(NSC)の講師でもある桝本さんは、エンターテインメント業界に生きる自身や教え子たちの苦悩と葛藤を小説に投影させたと言います。初の本格小説に込めた思いを聞きました。

芸人世界に生きる若者の 苦悩や葛藤を物語に

―「三人」を書いた思ったきっかけは。

もともと書くことが大好きなんです。最初は「半沢直樹」のようなエンターテインメント小説を目指していたのですが、友人の小沢一敬君(スピードワゴン)が「書くなら自叙伝にしなよ」と言ってくれて。「パンクバンドのファーストアルバムって自叙伝なんだよ。ファーストアルバムに、アーティストの人生全てが詰まっているから好きなんだ」と。その言葉に触発されて、2019年秋ごろからこの小説を書き始めたら筆が進み、1カ月半で書き終えてしまいました。

初めて読んでくれたのが、お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹君。彼とは季節ごとにデートする仲で、私が小説を書いたら「最初の読者になりたい」と言ってくれていました。「すごくいいよ」と褒めてくれて。文藝春秋の編集者にも認めていただいて、20年1月には出版が決まりました。トントン拍子でしたが、12月に出版してからは「生んだ後の苦しみ」を味わいました。新人作家なのに、コロナ禍で書店回りなどのPR活動が思うようにできなくて。でも、これもネタになるかなと楽しんでいる自分もいます。

 

主人公の「僕」に 教え子6千人の姿を投影

―物語の主要人物3人がとても魅力的です。

私は、人間関係の最小単位は「3人」だと感じていて、線ではなく図形になる「三角の物語」にしたいなと思いました。三者三様の視点が生まれるので、主要人物を2人にするより3人にした方が物語に深みが出るかなと。主人公の「僕」にはあえて名前を付けず、読者に一番近い立場にしました。「僕」には、これまでのNSCの教え子約6千人が味わった挫折や苦悩を投影させています。教え子の中でもEXITなど売れていく芸人は全体の5%。残りの人たちは、私に多くの言葉を残して別の道を選んでいきます。彼らの姿が「僕」という人物に凝縮されています。

人気芸人で天真らんまんな「佐伯」は、私のなりたかった芸人像。明石家さんま師匠であり、友人の徳井義実君(チュートリアル)や小沢君です。そして、放送作家の「相馬」は私自身を反映させています。私も相馬と同じで芸人を廃業して放送作家に転身し、離婚経験もあります。別れた後の10年間を「企画」と称して、自分の駄目な部分とひたすら向き合った内省の経験も、相馬の中に生かして描いています。

―「三人」のように、小沢さんや徳井さんと同居した経験もあったそうですね。

私と小沢君、徳井君はそれぞれ自宅を持ちながら、シェアハウスも借りて6年ほど一緒に過ごしました。コロナ禍のため昨年5月、シェアハウスはいったん解消しましたが、その体験も小説の中に息づいています。小説の3人が芸人養成所の同期という関係性も、私と小沢君、徳井君と同じで重要な設定です。同期って、一緒に学んだ甘美な時期が終わり、社会に出ると敵になってしまいます。輝いている同期と自分を比べて落ち込んだり、競争から脱落しようとしたら思いがけず同期に助けられたり。いろいろありますよね。同期の登場人物たちをシェアハウスで生活させたら、物語として面白いんじゃないかと考えました。ただ、小沢君や徳井君との生活ではけんかしたことがないし、イラッとしたことさえないんです。彼らは、器が大きい人物だから。そこは小説と違いますね。

テーマは「加齢と成熟」 「未完成でもいい」と伝えたい

―主要人物たちの「変化」が物語のキーになっている気がします。

「変化を拒む僕」に「積極的に変わろうとする相馬」、「変わらなくてもいいのに、変わらざるを得なくなった佐伯」とそれぞれの状況を描き分けています。激しく変わり、すさんでもいく社会の中で、どんな気持ちで世間と対峙(たいじ)するのか、自分自身を時代や社会に合わせてどう変化させていくのかが、大切だと思っています。

この小説で、最も書きたかったのは「加齢と成熟」です。毎年、年齢を重ねていくのに精神年齢は伴っていない感覚ってありますよね。私自身も自分の加齢と心の成熟度がイコールの感覚はありません。しかし、「人は未完成でいい」という感覚を持っています。

―読んだ人たちの反応は。

NSCの教え子たちも小説を読んでくれていて、「授業の延長みたいな気がした」などの感想をSNSに書き込んでくれています。授業の中で生徒たちに伝えていた「相手が自分をどう思おうと、自分が相手をどう思っているかが大切」などの言葉も、小説に登場させているからでしょうか。小説の主要人物たちは18~35歳の設定です。私自身のかつての痛みや傷をさらけ出して書いた作品を、同じ年代の若い人たちにぜひ手に取って楽しんでいただきたいです。

―次の小説も、準備していますか。

実はこの小説の出版前から、次の作品のプロットを書いていました。「三人」とは全く違う味わいの作品にしようと考えています。何げない日常の中に、物語の種はたくさんあると感じています。又吉君も同じことを言っていますが、創作のために自分からトラブルをもらいに行っているところがありますね。物語を作ろうと思って生きています。

(写真提供 文藝春秋)

ますもと・そうし 1975年広島市生まれ。NSCで学んだ後、芸人から放送作家に転身し、数多くの人気テレビ番組を担当。2010年からNSC講師。14年からはテレビ番組「鯉のはなシアター」(広島ホームテレビ)のナビゲーター(支配人)も務める。17年には同名の小説を出し、映画化されるなど話題に。20年12月に小説「三人」を上梓。

 

桝本壮志『三人』(文藝春秋)

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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