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インタビュー 劇作家・演出家・俳優 土田英生さん

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ドラマ「半沢直樹」では、不気味なIT企業の社長役で注目を集めた劇作家・演出家・俳優の土田英生さん(写真右端)。コロナ禍の中でも精力的に作品を世に送り続け、最近は映像作品の監督にもチャレンジしています。主宰する人気劇団「MONO」の作品づくりや新型コロナウイルスの感染拡大で苦境に立たされている演劇などのエンターテインメント業界について、土田さんに聞きました。

しんどい今こそ、 摩擦や分断を乗り越える物語

―最近の創作では、どのような思いを込めていますか。

3月初旬まで続いたMONOの新作舞台「アユタヤ」のツアー公演は、江戸時代初期のタイにあった日本人町を舞台にした時代劇でした。当時の日本人町は貿易などで栄え、日本から流れてきた人や日本人町で育った人、地元タイの人もいてダイバーシティ(多様性)の環境にありました。しかし、頭領だった山田長政が毒殺された後、日本人町には焼き打ちにされる苦難の歴史がありました。そのころの日本人町に住む人たちは排他的な気持ちになったと考えたんです。劇中では、人間関係の摩擦を乗り越え、出身地などの属性で分断することなく、手を携えて生きていく日本人町の人々をコミカルに描きました。

 

コロナ禍で先が見えず、世界中がしんどい思いをしているだけに、今回は自覚的に「甘い」物語を作りました。また、自粛期間中に1990年代の米ドラマシリーズ「フレンズ」を配信でずっと見ていて、演じる俳優たちの仲の良さが大好きなんです。「フレンズ」には影響を受けましたね。

映画「それぞれ、たまゆら」のワンシーン

―映画「それぞれ、たまゆら」(2020年公開)は、初めての監督作品ですね。

人々が次々と眠ってしまう世界で、小学校の避難所に集まった人々の心の在りようを描いた群像劇です。深刻な状況のはずなのに、妻の浮気疑惑でもめる夫婦がいたり、年齢差があるために愛を打ち明けられないカップルがいたり。眠ってしまう原因が病気なのかはあいまいにしているのですが、図らずもコロナ禍の状況を先取りしてしまいました。

 

知人のプロデューサーから映画製作の話をいただき、劇団のメンバー全員がメインキャストで出演する作品なら、と映画監督に挑戦することにしました。17年に出版した小説「プログラム」を映画用の脚本に仕立て、19年夏に撮影。残念なことに、コロナの感染拡大で公開が東京と京都、名古屋の3都市にとどまっています。今年は、広島などさらに多くの映画館で上演できるようにしたいと考えています。

映画「それぞれ、たまゆら」に出演した広島出身の劇団員立川茜さん

観客がいてこそ成立する 演劇のだいご味を実感

―コロナ禍のために演劇が相次いで上演中止に。舞台芸術はどうなるでしょうか。

多くの劇団や劇場が、公演したとしても客席を大幅に減らすなどの措置を取ったため、財政的に非常に厳しい状況です。私たちの劇団もそうです。演劇は中止にした場合、日程をずらして上演することが簡単にはできません。劇場や座組のスタッフ、キャストのスケジュール調整、セットの維持が非常に難しいからです。最近では、公演の配信などデジタルを利用した新しい試みにもチャレンジしてはいますが、リアルの公演にはかないません。

 

このたびのコロナ禍で、演劇の良さや劇場に足を運んでくださるお客さんのありがたさをつくづく感じました。観客の生の反応があってこそ、芝居が完成します。空間と時間を観客と共有できることこそ、演劇のだいご味です。その魅力をすでに知っている人は、今後も劇場で作品を楽しんでくださるでしょう。しかし、常連客の周辺にいるお客さんが劇場に戻ってくるのには時間がかかると覚悟しています。感染の恐れから、劇場へ足を運ぶ行為に多少の罪悪感が付きまとうだけで心に負荷がかかります。人間はちょっとした引っ掛かりに、左右されますからね。

 

―影響を受けている演劇や映画、音楽の関係者からは、文化芸術に対する手厚い公的支援を求める声が上がっています。

ドイツの文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」と発言して話題になりましたが、日本の政治家からはそのような言葉は聞かれません。愚痴を言わせてもらえるなら、日本ではそもそも文化予算が低く、フランスの4分の1程度です。アジアでは、韓国が国を挙げて演劇や映画、ドラマ制作に力を入れています。ソウル市の大学路(テハンノ)というエリアは200ほどの劇場がひしめく演劇の街で、ブロードウェー方式をとっています。公演が当たったら、別の劇場に移してでもロングラン公演をさせてくれます。日本と違って演劇や映画の専門学科を持つ大学も多く、きちんとした訓練を受けた俳優も少なくありません。そういった価値観やシステムの違いも大きいですね。

 

代議員を務めている日本劇作家協会(渡辺えり会長)も、演劇・映画・音楽の関係団体による共同キャンペーン「We Need Culture」の展開に力を入れており、国会議員や関係省庁などとの話し合いを重ねて公的支援の充実を働き掛けています。20年5月と今年1月の国の補正予算ではともに300億円以上が盛り込まれ、課題は残っているもののよく出してくださったとは感じています。私たちも助成金などを適切に使わなければいけません。

今後も舞台の作・演出の予定が入っており、俳優として出演する作品もあります。作り手として、面白くて優れた作品を届けることこそ、時間はかかっても皆さんを再び劇場に引き寄せることにつながると思っています。

 

(舞台「アユタヤ」写真撮影 井上嘉和)

つちだ・ひでお 1967年愛知県大府市生まれ。89年「B級プラクティス」(現MONO)結成。99年「その鉄塔に男たちはいるという」でOMS戯曲賞大賞、2001年「崩れた石垣、のぼる鮭たち」で芸術祭賞優秀賞。テレビドラマや映画の脚本執筆も多く、映画「約三十の嘘」(04年)、ドラマ「崖っぷちホテル!」(18年)など。俳優としてはドラマ「べっぴんさん」(16年)、「半沢直樹」(20年)に出演。今秋にはピッコロ劇団「いらないものだけ手に入る」の作・演出など。

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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