舞台「首切り王子と愚かな女」を作・演出 蓬莱竜太さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

舞台「首切り王子と愚かな女」を作・演出 蓬莱竜太さん

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劇作家・演出家として活躍する蓬莱竜太さんが、初めてファンタジーに挑んだ演劇「首切り王子と愚かな女」が7月半ば、広島市のJMSアステールプラザ大ホール(13日・中区)など3都市で上演されます。ツアーに先駆け、PARCO劇場であった東京公演では、井上芳雄や伊藤沙莉、若村麻由美ら実力のある俳優が架空の王国に生きる人々をダイナミックに演じ、観客を魅了しました。蓬莱さんに、作品の見どころを聞きました。

あらすじ

雪深く暗い王国ループ。女王デン(若村麻由美)が息子の第一王子ナルの病をきっかけに政治に興味を失ったため、国内は反乱の予兆に揺れていた。呪われた子として生まれ、孤島でひそかに育てられていた第二王子トル(井上芳雄)が国に呼び戻されたが、謀反を疑われた人々を調べもせず、次々と斬首刑にする。トルは、崖から身を投げようとしていた娘ヴィリ(伊藤沙莉)と出会い、死を恐れない彼女に興味を抱いて召し使いに取り立てる―。

劇的世界にいざないたい

 

―なぜ今、ファンタジーなのでしょうか。

これまでは、人々が認識しているようなしていないような、生活の中に潜む事象を捉えて作品を作ってきました。新型コロナウイルスの感染拡大でストレスフルになった社会の中で、そういった現代劇を見せる気になれませんでした。素直に演劇と遊び、その面白さや醍醐味(だいごみ)を役者やスタッフと共有して楽しみたい、いつもよりフィクション度を上げて劇的世界にお客さんをいざないたいと考えました。娯楽小説を紡ぐような感覚で、脚本を書き上げました。

 

―ファンタジーでもダークな色合いが濃く、国や政治の在り方について考えさせられます。

脚本を書いている時、ミャンマーの軍部によるクーデターやイスラエルとパレスチナの軍事衝突で、多くの命が奪われるニュースで見るたびに「国や政治とは何だろう」との思いが強くありました。日本の今の政治についても、いら立ちを感じずにはいられません。もちろん、今回の作品はそういった考えを意識的に反映させた寓話(ぐうわ)としても捉えられるでしょう。政治はシステムとして壊れにくいように構築されており、不満があっても現実の私たちは諦めがちです。せめてフィクションの中で民衆の怒りは侮れないぞ、と言いたい気持ちがありました。

ヒロインは「現代の女の子」

 

―ヒロインのヴィリをはじめ、もがきながらも信念を貫いて生き抜こうとする女性たちが印象的です。

昔も今も、女性は社会の中で闘っています。だからこそ、女性について書きがいがあるし、魅力的な人物像にしたいとも感じます。ただ、伊藤沙莉さん演じるヴィリには、自殺者が多い今の社会を投影させています。彼女はファンタジーの中に生きる「現代の女の子」。物語の初めに、「絶望して死にたい訳ではなく、生きたくない」という心理状態で崖から身を投げようとしますが、生きる目的や意味を見つけた後はエネルギッシュに生きていこうとします。私たちの現代社会では、生きようとする気持ちが希薄な人たちが増えているのだと思います。

 

―舞台美術にも、工夫が凝らされています。

演劇が豊かな表現方法だと伝えたくて、「舞台に稽古場を持ってこよう」と思い立ちました。舞台中央には簡素なセットを組み、後方には感染対策が施された俳優14人分の楽屋を据えて、コロナ禍での実際の稽古場を再現しています。舞台上の楽屋は出番がない役者が待機できる場所で、もちろん観客からは見えています。

演劇の絶対的な強みは、お客さんの想像力を喚起する力です。観客のイメージで補われてこそ、作品は完成します。今回の舞台では、そういった「見立て」の楽しさも味わえます。また、楽屋が舞台にあることで、俳優が役に入る「オン」と「オフ」を見てもらえます。役者の底力ってすごいなと、お客さんに思ってもらえたらいいですね。

若い演劇人に場と機会を提供

 

―今後、作品をどう作っていきますか。

コロナ禍で公演の中止や延期が相次ぎ、現場を失った演劇人は数多くいます。特に、演劇を志す若者が打撃を受けています。まだ十分な実績がない若い人たちにとって、劇場を借りるのがますます大変になるでしょう。このような状況が続けば、素晴らしい才能が消えていき、演劇の将来は暗いものになってしまいます。

若い俳優たちが劇場という場で経験を積む機会をつくりたいと、ソロユニット「アンカル」を立ち上げました。9月24日から10月3日まで、東京芸術劇場で公演を打ちます。僕も若い人たちから刺激を受けたいですしね。

何より稽古場が好きです。濃密に人と関わり、関係性を築いていけるからこそ演劇は楽しい。演劇人であり続けたいと思っています。

プロフィル

 

ほうらい・りゅうた 1976年兵庫県生まれ。99年劇団「モダンスイマーズ」旗揚げに参加。劇団全公演の作・演出を務め、「ビューティフルワールド」(2019年)で読売演劇大賞優秀演出家賞。最近は、劇団のメンバーと人形劇ムービー「しがらみ紋次郎~恋する荒野路編~」(21年)を制作して話題に。劇団以外では「まほろば」(09年)で岸田国士戯曲賞、「母と惑星について、および自転する女たちの記録」(16年)で鶴屋南北戯曲賞、「消えていくなら朝」(18年)でハヤカワ悲劇喜劇賞。広島では14年、16~18年の計4回、JMSアステールプラザ主催の「演劇引力廣島」で広島の演劇人たちと作品を発表。

広島市出身の俳優2人も出演

林大貴さん

 

「首切り王子と愚かな女」には、広島市出身の林大貴さん益田恭平さんが執政官や王、兵士など複数の役を演じるアンサンブルとして出演しています。林さんは29歳の時、陸上自衛隊を辞めて俳優に転身した経歴の持ち主。蓬莱さんが作・演出を担当した「演劇引力廣島」の作品で力を付け、東京でも「渦が森団地の眠れない子たち」(2019年、新国立劇場)などに出演しています。今回の作品について、「ファンタジーのキャラクターにも、現代に生きる僕たちと同じように喜びや苦悩がある。自分を重ねて共感しながら見てほしい」。

 

益田恭平さん㊨

 

益田さんは日活芸術学院で照明などのスタッフワークを学んだ後、俳優に。現在は劇団「HIGHcolors」に所属しながら、映像作品でも活躍しています。「エンターテインメントとして純粋に楽しんでほしい。今回の作品がお客さまの日常に、少しでも良い変化をもたらすことができたら、俳優としてとてもうれしい」と話しています。

作品情報

 

「首切り王子と愚かな女」

作・演出 蓬莱竜太

出演 井上芳雄、伊藤沙莉、高橋努、入山法子、太田緑ロランス、石田佳央、和田琢磨、若村麻由美、小磯聡一朗、柴田美波、林大貴、BOW、益田恭平、吉田萌美

 

[大阪]7月10日13時、18時 11日13時 サンケイホールブリーゼ

[広島]7月13日 18時30分 JMSアステールプラザ大ホール

[福岡]7月16日18時30分 17日13時30分 久留米シティプラザ ザ・グランドホール

 

(舞台写真撮影・加藤幸広)

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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