【あし太がめぐる民芸品#8】岩手県 南部鉄器
庶民の生活に寄り添う工芸品を『民芸品』と呼び、その土地ならではの技法が各地で継承されています。
今回は、その堅牢(けんろう)な美しさにファンを多く持つ鉄器をご紹介。
茶の湯文化とともに存在感を示した美しい鉄器
「南部鉄器で沸かしたお湯でお茶を淹れると、鉄分豊富でまろやかな口当たりのお茶が味わえる」。そんな南部鉄器の特長は、国内外から高く評価されています。南部鉄器といえば黒々とした堅牢な鉄瓶のイメージが強いですが、ヨーロッパではカラフルでスタイリッシュなデザインの鉄瓶や急須も人気。2010年の中国・上海万博では岩手県が南部鉄瓶を出展。南部鉄瓶で沸かしたお湯は鉄器独特の鉄くささがないため、中国茶をおいしく淹れられるとして注目を浴びました。
岩手県盛岡市で南部鉄器が誕生したのは江戸時代初期。武具を作るために全国に鋳物技術が広まった時代で、日本に茶の湯の文化が現れた時代でもあります。当時の岩手は、鉄器の原料である銑鉄(せんてつ)や漆が多く産出される土地。茶道好きの南部藩主(現在の岩手県)が京都から腕の良い釜師を招き、茶の湯釜を作らせたのが南部鉄器の始まりとされています。茶の湯の広まりとともに、南部鉄器の技術もみるみる発展。戦時中は一時的な技術の衰退も見られましたが、1975年には国の伝統工芸品の第一号に認定されました。
南部鉄器の代表的なデザインは、ポツポツした突起が並ぶ「アラレ紋様」。実はこの突起、鉄に厚みを持たせて保温性を高めるという機能面でも優れた工夫。使用するときは錆びないように注意深く手入れする必要がありますが、正しくメンテナンスを行えば、一生モノとして愛着のある茶器に育っていきますよ。