ドキュメンタリー映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」を監督 宮川麻里奈さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

ドキュメンタリー映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」を監督 宮川麻里奈さん

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「魔女の宅急便」シリーズで知られている児童文学作家、角野栄子さんの魅力が詰まったドキュメンタリー映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」が2024年1月26日から、広島県内など全国の映画館で公開されます。自分にとって心地よいことを選びながら、遊ぶように暮らし、物語の創作を続ける89歳の角野さん。ビビットカラーの装いも注目の的です。「この映画は角野さんへのラブレター」と語るほど、カラフルな魔女にぞっこんの宮川麻里奈監督に話を聞きました。

角野さんのライフスタイル いつか映画に

 

―映画と同じタイトルのテレビ番組を手がけていますね。

10年ほど前に読んだ角野さんのインタビュー記事が、番組制作の原点となりました。その時、「魔女の宅急便」の作者ってこんなにおしゃれですてきで、しかも1950年代にブラジルに移住するほどのぶっ飛んだ女性なんだと、驚いたんです。その後、「地に足の着いたスタイルのある暮らしをテーマに番組を作りたい」と考えた時、その記事のことを思い出しました。早速、角野さんへの取材に取りかかり、NHKのEテレで2020年から放送がスタート。現在は第4シーズンに入っています。実は、番組の開始当初から「映画にできたらいいなあ」と妄想していて、テレビ番組用のハイビジョンカメラではなく、あえて独特の質感や色彩が出せる4Kカメラで撮影を続けていました。KADOKAWAのプロデューサーから「ぜひ映画に」と声をかけていただいて、夢がかないましたね。

自分の「心地よさ」貫く生活

 

―監督が感じている角野さんの魅力は。

テーマカラーの「いちご色」に囲まれた自宅やファッションなど、暮らしの全てが角野さんにとって気持ちのいいもので貫かれています。お金をかけた贅沢なものというわけではなく、おまけのフィギュアやセミの抜け殻を飾って楽しんだり。そういった価値観で築き上げられた暮らしなので、鎌倉市のお宅にお邪魔する私たち取材陣も居心地がいいんです。何より、おちゃめでいつも愉快で、よく笑う方です。想像力も抜群。「あそこの角を曲がったら、キリンが出てくるかもしれないじゃない?」と楽しそうに近所を散歩している角野さんから、いつもわくわくする心のありようを学びます。撮影していてこんなに楽しい方は、めったにいないですよ。

 

 

私には20歳の娘がいるんですが、彼女は「魔女の宅急便」の熱烈な愛読者でした。「あのシリーズがなかったら、私はうまく思春期を乗り切れたかどうか分からない」と振り返ります。私も、「魔女の宅急便」は甘いだけのファンタジーではなく、老いや死など人生のエッセンスがちりばめられていると感じます。角野さんにインタビューするたび、「あ、この体験が物語のあの部分に反映されているのでは!」という発見がありました。映画を見た方が、こんな素敵な女性が書く物語はどんなだろうと、角野さんの本を手に取っていただけたら、何よりうれしく思います。

 

 

―カラフルなファッションも見どころです。

角野さんも40、50代までは黒中心のシックな装いが多かったそうです。髪が白くなるにつれ、地味な洋服ばかりだと寂しい印象になってしまうと、色彩豊かなファッションにシフトチェンジ。明るい色は本人だけでなく、周囲もほがらかな気持ちにします。私たち取材陣も毎回、「かわいい!」と大騒ぎ。角野さんのファッションが楽しみでした。

 

 

角野さんのコーディネートを担当している一人娘のくぼしまりおさん(児童文学作家、アートディレクター)との関係性や距離感も、とてもすてきです。りおさんによると、台所仕事を手伝おうとしてもけんかになってしまうけど、ことファッションに関しては2人でキャッキャと楽しめ、母娘のコミュニケーションもうまくいくと気づいたそうですよ。

奇跡的な「ルイジンニョ」との再会

 

―作家へと導いた「運命の人」と再会するシーンは、映画のヤマ場です。

日本人が自由に海外旅行をすることも難しかった時代、角野さんは24歳で個人移民としてブラジルに渡ります。その時に仲良くなり、ポルトガル語を教えてくれたのが近所に住んでいた11歳のルイジンニョ少年でした。ブラジルの体験を基に執筆した「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」(ポプラ社)で、角野さんは1970年に作家デビューします。

彼の消息が60年ぶりに判明し、ルイジンニョさん夫妻を日本に招くことに。しかし、彼は直前に体調を崩して大きな手術をすることになり、ギリギリまで来日できるかどうか分からない状態でした。角野さんとの62年ぶりの再会がかなったのは、奇跡的です。東京都江戸川区に2023年秋、開館した「魔法の文学館」(角野栄子児童文学館)にも案内できました。

作品彩る語りや音楽にも注目を

 

―語り、音楽とも映像に優しく寄り添います。
宮﨑あおいさんには番組に続いて、映画でもナレーションをお願いしました。客観的に説明する番組の語りとは異なり、映画では「取材する私たち」を主語として表現してもらっています。説明しなくても、宮﨑さんは語りの立ち位置の違いをきちんと読み取って表現してくださって、感動しました。一方、ロンドン在住の音楽家、藤倉大さんには、番組立ち上げの時にオファーのメールを送ったのですが、角野さんという存在から瞬時にインスピレーションが湧き、1日で曲ができたそうです。藤倉さんのデモ音源によってスタッフ全員が番組の世界観を共有することができました。音楽に導かれるように番組を作っていったのです。この映画は、藤倉さんが全編にわたって音楽を手がけた初めての作品になりました。

 

―チャーミングな角野さんの生き方に触れ、「老い」が怖くなくなりました。
そういった感想をたくさんいただきます。「日本女性の希望だ」という声も。映画のラストは、どうしても使いたかった角野さんのインタビューで締めくくっています。あらゆる人に届いてほしい、背中を押してくれる言葉です。劇場で確かめていただけたらうれしいですね。

プロフィル

 

みやがわ・まりな 1970年生まれ、徳島県出身。93年NHK番組制作局に入局。金沢局勤務を経て「爆笑問題のニッポンの教養」「探検バクモン」などの番組制作に携わり、「SWITCHインタビュー達人達」を立ち上げる。「あさイチ」などを担当した後、現在は「所さん!事件ですよ」「カールさんとティーナさんの古民家村だより」などのプロデューサーを務めている。

作品情報

 

映画「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」
語り:宮﨑あおい
監督:宮川麻里奈
音楽:藤倉大

 

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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