「散乱マリン」脚本・演出 田辺剛さんインタビュー/スポットライト
「散乱マリン」脚本・演出
劇作家・演出家演劇ユニット「下鴨車窓」主宰
田辺 剛さん
たなべ・つよし 1975年福岡市出身。京都大在学中から演劇を始める。2004年に演劇ユニット「下鴨車窓」を立ち上げ、国内外で作品を上演。05年に日本劇作家協会新人戯曲賞、07年にOMS戯曲賞佳作を受賞。昨年からJMSアステールプラザが主宰する演劇学校劇作家コースの講師も担当。
震災テーマに隠喩の舞台
発生から9年となる東日本大震災から着想された現代演劇「散乱マリン」が3月21、22日の両日、JMSアステールプラザ(広島市中区)で上演される。京都の演劇ユニット「下鴨車窓」の主宰者で、脚本・演出の田辺剛さんは「災害で身近な人を亡くした時に私たちはどう受け止めたらいいのか、観客の皆さんと考えたい」と語る。
舞台の設定は、撤去自転車を保管する敷地内の「広漠な野原」。なぜか解体された自転車の部品が散らばっている。大切にしていた自転車を引き取りに訪れた女性はショックを受け、部品を集めて元通りにしようとする。一方、現代美術家のグループも現れ、自転車の部品を陳列して作品に仕立てようとする。まるで目的が異なる2者を軸に物語は予想外の方向へ展開していく。
2014年に東京で初演し、今年は京都と広島、三重での再演となる。震災をテーマに選んだのは、「発生から数年を経ても行方不明者を探し続ける家族がいるのに、報道が減っていくと震災自体がなかったかのように錯覚してしまう」との思いから。
初演から5年。今年は東京五輪もあり、喧噪(けんそう)のうちに震災の記憶がさらに薄らいでいく危機感を抱き、「忘れないことこそ、自分の使命では」と再演を決めた。舞台に登場する野原や自転車の部品は一見、震災とは無関係に思える。「もちろん隠喩です。それらは何の置き換えなのかを、想像しながら見てもらえたら」。
「物語」の魅力考え続ける
哲学の研究者を目指して進んだ京都大大学院を中退して演劇の道へ。京都を足場に、作品ごとに役者やスタッフを募る演劇ユニット「下鴨車窓」で精力的に作品を発表。国内だけでなく香港などアジアを中心とした海外でも公演を重ねてきた。
「物語」が持つ魅力や役目への関心は、震災の頃からさらに強くなった。「人の人生そのものが物語だと思えます。そういう意味では、震災のような圧倒的な力で物語を奪われた人は、その後どう生きていけばいいのか。どんな物語だったら代わりになり、支えになるのか。そのようなことを考え続ける作業こそが、僕にとって演劇という表現なのかもしれません」
info.<散乱マリン>
脚本・演出 田辺剛 出演/西村貴治、福井菜月、澤村喜一郎ほか。上演時間/3月21日19時、22日14時の計2回。チケット料金/一般2500円、ユース(25歳以下)1800円、ペアチケット4300円。問い合わせ/082-244-8000