映画「とべない風船」を監督 宮川博至さん | アシタノ メインコンテンツにスキップする

映画「とべない風船」を監督 宮川博至さん

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西日本豪雨災害(2018年)をテーマにしたオール広島ロケの映画「とべない風船」が、12月に広島県内の映画館で先行上映され、来年1月には全国で順次公開されます。また、広島市中区のNTTクレドホールなどで開かれる広島国際映画祭(今年18~20日)でも上映予定です。豪雨で家族を失い、心を閉ざした漁師の男が周囲との温かな交流によって、少しずつ前向きになっていく姿を描いた人間ドラマ。登場人物を優しく包み込む瀬戸内の美しいロケーションも、作品の魅力の一つです。この映画に込めた思いや撮影の時のエピソードなどを、宮川博至監督に聞きました。

豪雨災害がテーマ

「とべない風船」のワンシーン(©buzzCrow Inc.)

 

―西日本豪雨災害を題材にした映画製作のきっかけは。

東日本大震災(11年)の後、震災をテーマにした作品が次々と生まれました。広島に住んでいる僕は、どこか遠くに感じているところがありました。その後、西日本豪雨があって僕自身や家族も怖い思いをしたり、仕事仲間や親戚の家が浸水などで大きな被害を受けたりしましたが、ドキュメンタリー作品はあっても、豪雨災害を取り上げた創作物は少ないように感じました。被災地以外の、例えば東京の人たちにとって西日本豪雨は、僕が震災の時に感じていた感覚と似ていたのかもしれません。それで、広島に住む自分が作らなきゃと。

 

災害だけでなく、ついのすみかを求めて島に移住する夫婦や心を病んでしまう元教員など、これまで出会った人たちのエピソードを物語に入れながら、脚本を書き上げました。タイトルにもある風船のイメージは、似島(広島市南区)に釣りに行って、行き帰りのフェリーで景色を眺めている時に思い浮かびましたね。

被災者の気持ち 丁寧に

 

憲二を演じた東出昌大(©buzzCrow Inc.)

 

―突然、家族を失った主人公の喪失感が、丁寧に描かれています。

瀬戸内の島で漁師として暮らす憲二(東出昌大)は豪雨の夜、妻と男児を外出させてしまったことに罪悪感を抱いて、人が変わったようになってしまいます。東出さんには撮影前、広島県坂町の小屋浦地区で、消防団員の案内で被災地を見て回ったり、当時の話をうかがったりして役作りの参考にしてもらいました。また、漁師から釣り方や魚のさばき方の指導も受けてもらいました。彼とは本当によく酒を飲み、話して考えを共有しました。楽しんで芝居をする彼が、僕は好きですね。

 

被災した人に対して、「災害が頻繁にあるような場所に住まなくても」という意見もありますが、憲二のように過去を手放せず、その土地にこだわり続ける気持ちは、理屈で割り切れることではないんだと思います。愛する人の生きていた空間がそこにあり、思い出であふれているとなおさらです。また、あの豪雨を体験をした僕たちはその後も、雨が急に激しく降ってくるとビクッとしますが、そういう感覚も表現できていたらいいなと思っています。

「広島の映画」に小林さん賛同

凛子役の三浦透子㊧と父親の繁三を演じた小林薫(©buzzCrow Inc.)

―第一線の俳優が集まりました。

お一人ずつ出演依頼をして、最初に決まったのが小林薫さん。島にやってくる元教員の凛子(三浦透子)の父・繁三を演じてくださいました。無理だろうと思っていたので、とてもうれしかったです。東京の資本で製作され、東京の監督やスタッフがやって来て地方はロケ地としてだけ使われる地方発の映画ではなく、広島の作り手が広島のお金で作る映画に、小林さんは「とてもいいね」と賛同してくれました。また、笠原秀幸さんが島の若者・潤をコミカルに演じてくださり、重くなりがちな作品に明るさを添えてくれました。

 

(©buzzCrow Inc.)

 

―CM制作で実績を上げています。ハイリスクの映画にあえて取り組むのは、なぜですか。

テレビのCMは2クールほどで放送されなくなってしまいます。映画は残るからいいなと。僕自身、いつも動いていたい性分なんです。素晴らしい俳優と仕事をして学んだことも多いので、演技に興味がある地元の若者のために、ノウハウを役立てたいと考えています。そんな過程を経て、地域に形として残せていけたらいいですね。

プロフィール

 

みやがわ・ひろゆき 1980年生まれ。広島市南区出身。大学時代から映像制作の道に入り、東京で活動後の2007年、広島に帰ってCMなどの映像制作会社「バズクロウ」(同市中区)を設立、CMなどのディレクターとして活躍。映画製作にも乗り出し、短編「あの夏、やさしい風」(15年)がJIM×JIMアワードで大賞など。2作目の中編「テロルンとルンルン」(18年)で中之島映画祭グランプリ、愛媛国際映画祭脚本賞、ポピージャスパー映画祭最優秀長編賞などを受賞。

作品情報

映画「とべない風船」

監督・脚本:宮川博至

出演:東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子、原日出子、堀部圭亮、笠原秀幸ほか

広島県内の上映館:八丁座、呉ポポロシアター、イオンシネマ広島、イオンシネマ広島西風新都、福山駅前シネマモード、シネマ尾道(公開日は各映画館のHPで確認してください)

 

※中国新聞のクラウドファンディング「カナエンサイ夢」では、映画「とべない風船」のサポーターを募集しています。ご支援いただける方を募っています。

https://kanaensaiyume.en-jine.com/projects/tobenai-fusen

 

この記事を書いた人

仁科久美(メディア中国編集部 ライター・編集者)

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