【あし太がめぐる民芸品#3】広島県 宮島杓子
庶民の生活に寄り添う工芸品を『民芸品』と呼び、 その土地ならではの技法が全国各地で継承されています。 第3回は、宮島土産として馴染み深い定番品をご紹介。
手にじんわりと馴染む、優しい木のぬくもり
広島土産や贈り物の定番、宮島杓子(しゃもじ)。結婚式や高校野球といったげん担ぎシーンでもよく見られ、広島県民にとって馴染みの深い縁起物です。
杓子が宮島の名産品となったのは、今から200年ほど前の寛政の頃。誓信(せいしん)という宮島・光明院(こうみょういん)の僧が、ある夜に厳島の弁財天の夢を見ます。音楽を司る神様で、琵琶を弾く姿が知られる弁財天。誓信は、その琵琶の美しい曲線からヒントを得て、「宮島参拝のお土産に、島で作った杓子を売り出そう」と島民に提案。「御神木を使った杓子でご飯をいただくと福を招く」という教えとともに、日本中に宮島杓子の文化が伝わっていきました。戦時中には「飯取る」=「敵を召し取る」という語呂のもと、戦勝祈願のために数多くの杓子が神社に奉納されたといわれています。
宮島杓子といえば、「必勝」「繁盛」といった筆文字が染められた看板杓子・飾り杓子が有名ですが、日常的に使用できるヘラ、ターナー、スプーンなどの日用品も。杓子づくりの技術を応用し、洋式化する時代に合わせた多くの調理道具が作られています。木製の調理器具は、鍋・皿を傷つけず、心地よい音と一緒に料理や食事を楽しめます。
塗装を施さず、毛羽立ちを抑えるためにじっくり研磨された宮島杓子。使っていくうちに色や触り心地の経年変化を感じ、段々と道具に愛着が湧いてくるのも、木工芸品の醍醐味です。